最新記事

米外交

バイデン政権も「中国への強硬姿勢は正しい」と、脱中国に挑む

WALLED IN

2021年3月31日(水)19時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

新大統領も頭が痛い。新型コロナ対策で巨額の支出を迫られるなか、アメリカの財政赤字が空前のレベルに達するのは必至だ。事情通の関係者によると、国防当局が恐れているのは、今後2、3年にわたって予算削減の圧力がかかる事態だ。この関係者は冗談めかして、バイデンによる「アジアへの旋回(ピボット)」も(オバマ時代と同様)掛け声倒れに終わるのではないかと心配していると語った。オバマの「ピボット」は大々的に宣伝されたが、結局アジアに再配置された部隊はほんの一握りだった(しかもその大部分はオーストラリアに派遣された)。

どうやら、トランプ政権の中国に対する厳しい姿勢は正しかったというブリンケンの発言は本気だったらしい。貿易面でも軍事面でも、バイデンのアプローチは今のところ前政権と変わりない。

210330p18_PEL_04.jpg

気候変動問題への協力の代償として、中国が何を求めてくるかは未知数だ JASON LEEーREUTERS


中国政策を見定めるシグナル

テクニカルな問題を別にすれば、新政権がトランプ政権と異なる点は2つ。まずは中国と貿易面で対峙する上でも軍事面で有効な抑止力を維持する上でも、同盟諸国との協力を重視すること。もう1つは、他のあらゆる分野で関係が緊張していても、気候変動に関しては中国との協力を進めるという点だ。

世界で最も多くの二酸化炭素を排出している中国を口説き落とすという目標は悪くない。しかし、中国が説得に応じると信ずる根拠は何もない。気候変動問題担当大統領特使のジョン・ケリーは、世界はこの問題でアメリカがリーダーシップを発揮することを渇望していると述べた。しかし実際のところ、中国は気候変動に関するアメリカの「リーダーシップ」など少しも期待していない。

だが民主党内では、この問題が非常に重要な意味を持っている。バイデンは支持者を満足させるために、カナダの油田と米メキシコ湾岸の製油所を結ぶキーストーンXLパイプラインの建設認可を取り消し、労働組合員の怒りを買うこともいとわなかった。それを考えると、中国はこの問題を利用して欲しいものを手に入れようとするかもしれない。あちこちで排出量の削減を約束したり、「グリーン」エネルギーの研究プロジェクトに加わる代わりに、関税の撤廃や経済戦争の段階的緩和を求めてくる可能性も否定できない。

では、バイデンの中国政策を見定める重要なシグナルは何か? まずは、中国がアメリカ製品やサービスの輸入を増やさなかった場合に、トランプ時代の高関税を無期限に維持するかどうか。また現在進行中の国防計画見直しによってアメリカの東アジアにおける兵力の配置等がどのように変化するか。脱退したTPP(環太平洋経済連携協定)への復帰を試みるかどうかも焦点となる。

こと中国に関する限り、バイデンは夢を追うよりも現実を直視する覚悟だ。たとえ、その現実がトランプ色に染まっているとしても。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ワールド

ロ凍結資金30億ユーロ、投資家に分配計画 ユーロク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中