最新記事

ミャンマー

国軍につくか市民につくか......ミャンマーが中国に迫る二者択一

China Finds Itself Under Fire in Myanmar

2021年3月24日(水)17時00分
アンドルー・ナチェムソン(ジャーナリスト)
炎上する中国系の工場(ヤンゴン)

反中感情が高まるなかヤンゴンの中国系工場が炎上(3月) AP/AFLO

<反中感情が高まるなか国軍と手を組むか、経済リスクと対中感情を優先して縁を切るか、中国が直面する究極の選択>

3月14日、ミャンマー(ビルマ)の最大都市ヤンゴンの工業地帯・ラインタヤ地区などで治安部隊がデモ隊に発砲し、少なくとも38人が死亡した。1日の死者数としては、2月1日にクーデターで国軍が全権を掌握して以降で最多だ。さらにこの日、ラインタヤ地区では中国資本の複数の工場が炎に包まれた。原因は不明だが、従業員の間では数日前から、流血の事態が起きれば工場は灰と化すと言われていた。

中国の国営メディアがこの事件を経済的な損失に注目して報じたが、これにミャンマー市民の怒りが爆発。市民の間では、中国がクーデターを支持しているように見えること、少なくとも国軍の行為を非難しないことへの不満が以前からくすぶっていたためだ。

今回の衝突は、中国とミャンマー国軍の関係にも緊張をもたらしたようだ。ミャンマーで活動する中国の国有企業は一部の従業員を引き揚げ、中国メディアはミャンマー当局が中国の利益を守れないなら、中国は「思い切った行動」を取ると警告している。

今回の出来事は、ミャンマーにおける中国の複雑な立場も浮き彫りにしている。中国指導部は独裁政権と手を組むことに良心の呵責を感じていないようだが、安定を何よりも重視する傾向もある。だがクーデター後の混乱によって、前政権との間で調印した大型開発案件など中国のビジネス上の利益が脅かされている。

中国陰謀論がSNS拡散

その一方で、デモ隊の間で中国への敵意が高まっており、中国は国軍と市民のどちらにつくのか立場を明確にせざるを得ない状況に追い込まれるかもしれない。

中国への怒りはデモの開始当初からあり、ヤンゴンの中国大使館周辺では定期的に抗議運動が行われていた。当初はクーデターを強く非難しない中国へのまっとうな批判だったが、不満が膨れ上がるにつれて中国がクーデターを企てたとの説が拡散。国軍の中に中国軍兵士が交じっていたという偽の目撃情報や、国軍によるインターネットの遮断措置を中国が支援したというさまざまな噂話がソーシャルメディアで広がった。

中国がミャンマーへの内政干渉を試みてきた過去を考えれば、市民が警戒するのは当然だ。ただしクーデターの背後に中国がいるという陰謀論は、文民政権を率いたアウンサンスーチーとの関係構築に中国が腐心してきた経緯や、中国と国軍の緊張関係を見落としている。またミャンマー西部のラカイン州で独立闘争を仕掛ける武装勢力のアラカン軍に対し、中国が物資を支援しているとの指摘もある。

クーデターによって中国の投資プロジェクトは危機に瀕している。中国は今後、インド洋へ直接のアクセスを可能にするラカイン州チャウピューの港湾開発計画の進捗を厳しくチェックすることだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ

ワールド

米上院議員が戦争権限決議案、トランプ氏のイラン軍事

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電

ビジネス

パリ航空ショー、一部イスラエル企業に閉鎖命令 イス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中