最新記事

アフガニスタン

過去最悪の治安情勢で、祖国アフガニスタンを捨てる人たち

Fleeing Afghanistan Forever

2021年3月3日(水)17時00分
ステファニー・グリンスキ(ジャーナリスト、写真家)

「近所にロケット弾が落ちてきて、子供たちを抱えて地下室に逃げ込んだ」と、ジャラリは振り返る。「あらゆる場所が前線だと思い知らされた。自宅の窓辺にいても、家族の命が直接脅かされることになりかねない」

タリバンの悪夢再び

ジャラリは安定した職と庭付きの大きな家、愛車のベンツを手放してトルコに移り住むことにした。「全てを置き去りにして、仕事も知人もなく、言葉も知らない外国へ行く。私の魂は打ち砕かれた」

この数カ月間、ジャラリと同じく、大勢のアフガニスタン人がカブールを後にしている。多くはジャーナリストや政府職員、人権活動家たち。つまり、アメリカが過去20年間アフガニスタン再生のために育成資金を投じてきた、教育水準の高い中間層だ。

彼らが快適な生活を送っていたカブールは、あまりに危険な場所になった。「2001年以降で最も暗い状況だ」と、アフガニスタン独立人権委員会のシャハルザド・アクバル委員長は語る。

暴力が激化したのは、タリバンとアフガニスタン政府の和平交渉が1カ月以上行き詰まっていた期間だ。だがトランプ前米政権とタリバンが昨年の和平合意で、アフガニスタンに残る米軍兵士約2500人の完全撤収期限と定めた5月1日が迫るなか、両者は2月22日に交渉を再開した。

もっとも、バイデン米政権は超党派の諮問機関が取りまとめた報告書の提言を受け、完全撤収の期限を延長する方向に傾いているようだ。いずれにしても、アフガニスタンの今後の見通しは暗い。

タリバンは現在、国土の約半分を実効支配している。駐留米軍が期限どおりに完全撤収しなければ、暴力がさらに増加するとみる向きは多い。その対象には、外国人も含まれる。タリバンはNATOに宛てた声明で「占領と戦争の継続はあなたたちの利益にも、双方の市民の利益にもならない」と述べている。

一方、駐留米軍の完全撤収にもリスクが伴う。タリバンと政府が和平合意に達する前に米軍がいなくなれば、暴力による政権奪取や軍閥主義への転落が起こるのではないかと多くの国民は懸念する。内戦下でタリバンが台頭した92~96年当時が再現され、米軍侵攻以前に後戻りすることにもなりかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

AIで児童の性的画像生成「犯罪に」、ユニセフが各国

ワールド

NY市、WHO傘下のネットワークに加盟 トランプ氏

ビジネス

EXCLUSIVE-日本製鉄、転換社債5000億円

ワールド

韓国、重要鉱物の供給網確保で中国との緊密な協力を模
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 5
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 6
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 10
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中