最新記事

ポピュリズム

トランプは生き延び、極右思想は世界に拡大し続けている

FAR-RIGHT EXTREMISM IS A GLOBAL PROBLEM

2021年2月16日(火)11時25分
ヘザー・アシュビー(安全保障・外交専門家)

若年層への支援強化が急務

こうした状況が物語るのは、もはや極右の台頭は特定の国々の内政問題ではない、ということ。グローバルな問題であり、拡大しつつある脅威であると認識すべきだ。

アメリカと国際社会が結束して即座にこの脅威に立ち向かわなければ、その広がりを断つチャンスは失われてしまう。

この10年ほど国や地方自治体、あるいはジャーナリストや普通の人々が極右のプロパガンダやヘイトスピーチと闘ってきた。そうした試みは国際的な取り組みでも参考になる。

米連邦議会議事堂への暴徒の突入を「反乱」と呼んだジョー・バイデン大統領は極右過激派との闘いで国際社会の先頭に立てるはずだ。テロ対策の国際的な枠組み「グローバル・テロ対策フォーラム」の対象を広げて、極右過激派とそれに準じる動きを含めることはその一歩となる。

アメリカも含め多くの国には人種、民族、宗教などで一部の人々が差別・抑圧されてきた歴史がある。その歴史と向き合うため、極右との闘いは避けては通れない。

鍵を握るのは、憎悪をあおるデマや陰謀論など偽情報への対処だ。

インターネットでは検索履歴を基にユーザーの興味に合わせたコンテンツが優先的に表示されるため、偏った考えが増強されがちだ。過激な組織や個人の主張に人々が容易に感化される危険性もあり、極右や全体主義のレトリックが国境を越えてあっという間に広がる怖さが付きまとう。

バイデンは選挙戦中に、民主主義国の首脳を集めたサミットの開催を提案していた。ぜひ実現させてほしいが、偽情報対策を盛り込まなければ、そうした会議も有名無実になる。

先進国は高齢化が進んでいるが、世界的に見ると若年層の人口は急増している。将来に希望が持てない若者は過激な思想に簡単に染まってしまうが、それを防ぐことが国際社会の喫緊の課題だ。

2008年の世界金融危機とコロナ禍による景気後退の2つの経済危機の間に、チリから香港まで世界中の若者たちが改革を求めて声を上げている。バイデン政権は国連と協力してこの世代への支援を強化するため、人権擁護や社会的公正の実現、民主的統治の促進といった課題に取り組む国際機関や非営利組織への支持を表明し、資金を拠出すべきだ。

極右との闘いは一筋縄ではいかないだろう。極右思想の要素を政策や主張に織り込んでいる政治家や政党は少なくない。

しかしどんなに困難でも闘い抜く価値はある。それは民主主義、平等、法の支配、人権を世界に広げる闘いなのだから。

From Foreign Policy Magazine

<2021年2月23日号「ポピュリズム2.0」特集より>

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ氏の「コメ発言」、政府は参院選控

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止 軍批判巡る失職請求審理

ビジネス

中国のAI半導体新興2社、IPOで計17億ドル調達
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中