最新記事

ソーシャルメディア

SNSは大統領を「検閲」していい

MEDIA CAN CANCEL TRUMP

2021年1月18日(月)18時20分
フロマ・ハロップ(ジャーナリスト)

トランプのツイッターアカウントには「凍結中」との表示が JOSHUA ROBERTS-REUTERS

<ツイッター、フェイスブック、アマゾン。ほかにEC企業などもトランプ一派を排除する動きに出ている。テック企業の情報監視能力が議論の対象になる日はいずれやって来るが、今はその時ではない>

ツイッターがトランプ米大統領の個人アカウントを永久停止し、フェイスブックも無期限凍結した。アップルとグーグルはそれぞれ、米連邦議会議事堂を襲撃した暴徒たちのたまり場と化していたSNS「パーラー」をアプリストアから削除した。

とはいえパーラーにとって最も大きな打撃は、アマゾンの決定かもしれない。同社がクラウド基盤の提供を停止したため、パーラーは接続不可能になってしまった。

昨年の米大統領選でのトランプの敗北、共和党の上院多数派からの転落、そして嘘をばらまき暴力をあおる場だったプラットフォームの喪失── 今や「トランプ・ワールド」、あるいはその残党は、自動的に自己愛まみれの自己憐憫モードに転換している。テクノロジー企業による検閲は許せないと、彼らは声を震わせて非難する。

議事堂襲撃を扇動した1人、共和党のジョシュ・ホーリー上院議員は自著の出版が中止されたことを受けて、「(言論の自由などを保障する)合衆国憲法修正第1条への直接攻撃」だと批判した。だがエール大学法科大学院出身のホーリーなら、心得ておくべきだった。修正第1条が禁じているのは政府による検閲だけだ、と。

今回、アカウント停止などを決めたのはどれも民間企業だ。顧客に何を提供して、何を提供しないか、企業側が判断するのは極めて当然。リベラル派の筆者が、保守派のFOXニュースにレギュラー番組を持たせてほしいと要求して、断られたら? 企業判断だから、それは仕方ない。

巨大テクノロジー企業の情報フロー監視能力は、いずれ周到な議論の対象になるだろう。だが、今はその時ではない。

選挙プロセスが暴力で破壊されかかったばかりの今、アメリカの民主主義は危機に瀕している。これは国家的緊急事態であり、緊急措置が求められている。だからこそ、テクノロジー大手以外もトランプ一派を排除する動きに出ている。

医療保険会社が構成するブルークロス・ブルーシールド協会やホテルチェーンのマリオット・インターナショナルは、米大統領選の結果を覆そうとした共和党議員への献金を無期限停止すると発表。オンライン決済サービス企業のストライプ、EC(電子商取引)システムを提供するショッピファイなどは、トランプ陣営やトランプ個人のブランドとの取引を停止した。

企業側には、議事堂襲撃事件への嫌悪に加え、ビジネス上の動機もある。アメリカのチェックアンドバランス(権力の抑制と均衡)制度や平和的な政権交代は、企業の利益になってきた。トランプ支持者が解き放った混乱は米経済、ひいては米企業を害すると、経営者らは理解している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

伊プラダ第1四半期売上高は予想超え、ミュウミュウ部

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長

ビジネス

テスラ取締役会がマスクCEOの後継者探し着手、現状

ワールド

米下院特別委、ロ軍への中国人兵参加問題で国務省に説
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中