最新記事

政権交代

米議事堂占拠事件はクーデター、トランプが大統領のうちは危機が続く

This Is a Coup. Why Were Experts So Reluctant to See It Coming?

2021年1月7日(木)18時50分
ポール・マスグレーブ(マサチューセッツ大学アマースト校助教)

大統領選の選挙人団の票の確認作業を阻止するため、トランプ支持派が連邦議会議事堂に乱入。作業は一時中断された Stephanie Keith-REUTERS

<次は戒厳令で軍が巻き込まれる可能性も>

1月6日の朝、いつも通り政治ニュースをチェックした。いちばん大きなニュースは、ジョージア州で行われた上院の決選投票に関するもの(投票の結果、上院でも民主党が過半数を獲得した)。新型コロナウイルス感染拡大の記事もあった。

だが目を引いたのは、ワシントン・ポストのデービッド・ナカムラ記者が書いた記事だ。連邦議会ではその日、米大統領選の最終的な手続きである選挙人投票の集計確認作業が行われる予定だが、ドナルド・トランプ大統領の敗北を信じず、ジョー・バイデン前副大統領の勝利を決して認めようとしない勢力が計画している抗議運動が「クーデター」に発展するか否かを論じたものだ。

記事には数人のリベラル派の専門家のコメントが引用されていた。騒ぎになる可能性はあるが、1月5日の段階では「クーデターという公式の学術的な定義に当てはまるような状況には至っていない」と、彼らは異口同音に述べた。

なかには冷静な対応を呼びかける専門家さえいた。抗議デモがクーデターにまでエスカレートするなどと警告すれば、それ自体が自己成就的な予言になり、現実になりかねない、というわけだ。

トランプの演説に煽動され、暴徒と化した支持者が連邦議会議事堂に乱入した、というニュースが流れたのは、その数時間後のことだ。

まさにクーデターそのもの

上下両院合同会議における選挙人団の票集計の確認手続きは中断を余儀なくされた。報道によれば騒ぎのなかで銃弾が放たれ、負傷者も出たという(のちに一人が死亡)。トランプ支持の男がナンシー・ペロシ下院議長の椅子に座ってふんぞり返る写真は、議事堂が事実上占拠されたことを物語っていた。

ニュース専門ケーブルテレビC-SPANの報道では、上下院の重鎮らは「非公表の場所」に避難したとのこと。現場の模様を伝える記者たちも自分がどこにいるか明かさなかった。暴徒に襲われかねない状況ゆえ、当然の自衛手段だ。鎮圧のために州兵も出動した。

この光景を見れば、もはや否定できない。今回起きたことはクーデターの企て、すなわち「法的枠組みに反して権力を奪取する暴力的な試み」にほかならない。

トランプが、自らの退任を決定づける手続きを妨害するよう暴徒を煽ったのだ。憲法に基づく統治は停止を余儀なくされた。南部諸州が連邦から離脱した南北戦争中でさえ、選挙や政権交代が延期されたことはない。アメリカは今や当時よりもはるかに重大な統治の危機に直面している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英仏海峡トンネルで電力障害、ユーロスター運休 年末

ビジネス

WBD、パラマウントの敵対的買収案拒否する見通し=

ワールド

サウジ、イエメン南部の港を空爆 UAE部隊撤収を表

ビジネス

米12月失業率4.6%、11月公式データから横ばい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中