最新記事

政権交代

米議事堂占拠事件はクーデター、トランプが大統領のうちは危機が続く

This Is a Coup. Why Were Experts So Reluctant to See It Coming?

2021年1月7日(木)18時50分
ポール・マスグレーブ(マサチューセッツ大学アマースト校助教)

言い換えれば、今回の騒乱は、1991年8月に旧ソ連の守旧派が当時のミハイル・ゴルバチョフ大統領を軟禁した事件や、1993年10月にロシアのボリス・エリツィン大統領(当時)と議会派が対峙し、多数の死傷者が出た事件に匹敵するような出来事だ。

専門家がこれまで「心配ない」と言い続けてきたことが現実になったのだ。

ここ数年、アメリカの政治学者は民主主義の危機を盛んに論じてきた。ワシントン・ポストの記事にコメントを寄せた顔ぶれも例外ではない。

トランプが一向に敗北を認めず、緊張が高まるなか、政治学の論客たちは2派に分かれた。「既存の制度がアメリカを救う」「最終的にはアメリカの民主主義の伝統が守られる」という楽観派と、少数ながら大規模な騒乱が起こり得ると警告する悲観派だ。

議事堂占拠はクーデター未遂と言っていい。研究機関センター・フォー・システミック・ピース(CSP)の用語集でも、クーデターを「(必ずしも政権の権限の本質や統治形態に変化がなくとも)行政府の指導体制と前政権の政策に大きな変化をもたらす反政府派/与党または政治エリートの一派による執行権限とオフィスの暴力的な掌握」と定義している。

歴代の国防長官が警告

トランプとその熱狂的な支持者たちが、合法的な投票、集計、集計の確認を執拗に妨害し、さらにはマイク・ペンス副大統領にバイデンの勝利を認定させまいと圧力をかけるなど異常としか言いようがない手段に出た今回の事態は、まさにこの定義に当てはまる。

暴徒とその扇動者たちの動機については今後の取調べを待つにしても、結集を呼びかけたトランプ支持者のオンライン・フォーラムの意図は明らかだ。トランプ自身のツイートと同様、彼らは一貫して公然と、トランプが政権の座にとどまれるよう、大統領選の結果を覆そうと訴えてきた。

1月20日の大統領就任式が近づけば、政権移行を妨害する試みに軍隊が巻き込まれる可能性もある。1月4日のワシントン・ポストに10人の国防長官経験者が連名で意見記事を寄稿し、「選挙結果をめぐる争いに軍を巻き込めば危険なことになる」と異例の警告を発したのも、トランプが戒厳令を出すなどして軍隊を介入させる懸念があるからだ。

それでも楽観的な人々は総じて、希望的な観測を頼りに現状を見る。真実よりも、自分たちの願望を見ようとするのだ。だが政治学者の立場から言えば、今起きているのは、武装した民兵と権力奪取の試みは紛れもないクーデターだ。

アメリカ政治には暴力の歴史もあることを十分に認識している専門家も少数いるが、大多数は選挙の見通しを示すことにかまけ、その結果がどんな意味を持つのかかは考えなかった。

アメリカは危険な段階に突入しつつある。アメリカの民主主義がいかに脆いかを知る者たちが「危険な数カ月」と称した政権移行期間は、まだあと数週間残っており、今もトランプが政権を握っている。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中