最新記事

日本経済

コロナの休業補償の財源「雇用調整助成金」とは何か 2.6兆円支出で枯渇

2021年1月22日(金)10時09分

新型コロナウイルスの感染拡大で休業する飲食店が相次ぎ、雇用調整助成金の財源が底をついている。写真は都内で9日撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)

新型コロナウイルスの感染拡大で休業する飲食店が相次ぎ、雇用調整助成金の財源が底をついている。コロナ禍が始まってからこれまでに支給したのは、特例措置の増額分を含め2.6兆円。国の想定を大きく上回り、今回の緊急事態宣言の再発令で支出はさらに膨らむことが予想される。財源を負担してきた経済界からは、これ以上は耐えられないとして一般会計から支払うべきとの声が上がるが、政府にも余裕がなく八方塞がりの状態だ。

雇用調整助成金は、不況などで雇用が悪化した際に、失業者を増やさないようにするための制度だ。財源は、事業者が従業員の雇用を守るために負担する雇用保険の保険料。政府の労働保険特別会計「雇用安定資金」に積み立て、運用されている。不足する場合は国も財政資金を投入する。

「雇用調整助成金の財源はとっくに枯渇している」──厚生労働省の職業安定課の担当者はそう語る。「あちこちの会計からかき集めて不足を補った」と、助成金の申請が想定以上に増えたため、対応に奔走したことを明かす。

昨年前半にコロカ禍が始まってからの給付総額は、今年1月の足元までで2.6兆円に上る。コロナ前には財源である雇用安定資金は1.5兆円積まれており、そこから20年度当初予算で給付額として35億円程度の予算を組んでいた。しかしコロナ禍により想定外の巨額給付となり、1.5兆円の資金は底をついた。今年度になって企業が拠出した保険料収入に加えて、財政資金も投入することになった。

ただし、2.6兆円には特例措置による増額支払い分も含まれる。政府はコロナの影響を受けた企業への上限額を通常の2倍弱に当たる1万5000円に引き上げたほか、パートやアルバイトなど短時間労働者も対象にしている。政府が決めたこの部分は財政で賄われている。昨年6月の2次補正で1.6兆円を投入し、今国会で審議中の3次補正には1.4兆円を盛り込んだ。

政府は相次ぐ予算措置で長期化に備えているが、雇用保険の財源を全額負担している経済界からは悲鳴が聞こえ始めた。雇用の悪化を防ぐという趣旨には同意しつつも、これ以上の保険料の負担増は今の経営環境の中で耐えがたいと訴える。

具体的には、政府が決めた緊急事態宣言で余儀なくされる休業については、特例措置による増額分だけでなく、もともとの給付分についても国の一般財源で負担してほしいと求めている。また、枯渇した雇用調整助成金を立て直すための保険料率の引き上げは避けるべきとしている。

日本経済団体連合会(経団連)は「今回の場合、失業対策というよりも感染対策と位置付けられる。しかも当初見込みより長期化しており、終わりも見えない」(労働政策本部)と指摘。一般財源を思い切って投入する新たな仕組みを整備すべきだと主張する。日本商工会議所も「最低賃金引上げや子育て資金の負担、同一労働同一賃金といった新たな事業者負担がのしかかっている。中小企業からの悲鳴が次々と寄せられている」(産業政策第2部)としている。

一方、政府も余裕がない状態だ。もともと財政がひっ迫している中で、通常の給付額と増額措置の差額に国費を投入していることもあり、あくまで企業に負担を求める姿勢だ。「特に財源議論は行っていない。コロナ禍が続く中で当面は従来通り、基本的な給付額については企業負担とさせてもらう」(厚労省職業安定局)としている。

(中川泉 編集:久保信博)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...
→→→【2021年最新 証券会社ランキング】


ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、公開市場での国債売買を再開と総裁表明 

ビジネス

インド、国営銀行の外資出資上限を49%に引き上げへ

ビジネス

日米財務相、緊密な協調姿勢を確認 金融政策「話題に

ワールド

トランプ氏、28年の副大統領立候補を否定 「あざと
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中