最新記事

インドネシア

孤児支援の募金かたりテロ活動 バリ爆弾テロの実行組織、まさかの資金調達方法

2020年12月3日(木)20時10分
大塚智彦

逃走続けた爆弾製造の専門家

国家警察によると24人の中にJIの仲間から「プロフェッサー(教授)」と呼ばれていた高性能の爆弾製造専門家であるトフィック・ブラガ(別名ウピック・ラワンガ)容疑者が含まれていた。

トフィック容疑者は2002年にバリ島で発生した爆弾テロの首謀者で2005年に警察部隊との銃撃戦で死亡したJI幹部のアズハリ容疑者と関係があり、2004年のスラウェシ島中スラウェシ州ポソでのキリスト教会爆弾テロを手始めに多くの爆弾テロ事件で使用された爆弾の製造に関わった容疑で手配されていた。

同容疑者はポソからスラウェシ島のマカッサルを経由してジャワ島東部のスラバヤ、中部のソロなどを転々として逃走を続け、最終的にスマトラ島南部のランプン州に潜伏していたところを「デンスス88」によって11月25日に逮捕された。

当時ウピック容疑者を潜伏先の民家に匿っていた容疑でJIのメンバー7人も同時に逮捕されたという。

警察では「ウピック容疑者の逮捕はJIにとって大きな痛手であるはずだ」として今後さらに捜査を続けてJIを壊滅に追い込みたいとしている。

募金で集めた資金でメンバーシリア派遣

またJIの新規メンバー獲得を担当するリクルーターだったというケン・スティヤワン容疑者も今回の一斉逮捕者の中に含まれているという。

ケン容疑者は「脱急進派」を掲げる組織を創設、JIとしての活動を隠蔽して新規メンバーを獲得。新メンバーを軍事訓練のためにシリアに派遣する任務や資金調達を担当し、募金箱作戦にも関与していたとみられている。

警察ではこうしたシリア派遣の費用にも「募金箱」を利用して集めた多額の「寄付金」が流用されたものとみて、JIの資金の流れの全容解明を急いでいる。

苦し紛れの募金箱を利用した資金調達

今回摘発されたJIの募金箱は全国の複数の地方でコンビニエンスストアやスーパーマーケット、ガソリンスタンド、モスク、主要交差点、ATM(現金自動支払い預け機)センターなどに設置されていたことが分かっている。

「募金箱」にはJIが装った孤児のための施設や慈善活動組織の名前が使われており、多くの人々が疑うことなく寄付を投じていたとみられている。

こうしたイスラム教徒の善意に付けこんだテロ組織の資金集めについて「JIは1993年にマレーシアで創設され、2003年に非合法化されたインドネシアでも古い組織。それだけに新メンバーの獲得や資金調達も苦しい状況にあることから苦肉の策として募金箱という奇手を採用したのではないか」との見方が有力となっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド総選挙、2回目の投票始まる 与党優位揺るがず

ワールド

米中関係の「マイナス要因」なお蓄積と中国外相、米国

ビジネス

デンソーの今期営業益予想87%増、政策保有株は全株

ワールド

トランプ氏、大学生のガザ攻撃反対は「とてつもないヘ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中