最新記事

感染症対策

最愛のビアホールを閉鎖したドイツに、アメリカはコロナ対策を学ぶべき

2020年11月4日(水)18時40分
ジョーダン・ワイスマン

飲食店を閉鎖せよ(フランクフルトのカフェ、10月29日) KAI PFAFFENBACH-REUTERS

<米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、アメリカで学校閉鎖を理由に離職した母親は推定で160万人に上る>

ドイツの新型コロナウイルス対策は、欧米諸国の模範とされている。メルケル首相のリーダーシップの下、ドイツの迅速かつ組織的な初期対応は死者を少なく抑え、感染率をコントロール可能なレベルにまで急速に低下させた。

この成功は、アメリカの場当たり的でお粗末な対応とは対照的だ。連邦制の大きな民主主義国でも、パンデミック(世界的流行)にうまく対処できることを証明している。

ヨーロッパが感染拡大の第2波に見舞われた現在、ドイツの状況も深刻化している。新規感染者数は100万人当たり223人。フランス、イタリア、イギリスなどの近隣諸国やアメリカより低いが、かつてなく高い水準にある。

ドイツは10月28日、新たに1カ月間の部分的ロックダウン(都市封鎖)を発表した。バーやレストランなどの飲食店、劇場などの娯楽施設、マスクなしの客が屋内に密集するその他の施設を閉鎖し、損失の金銭的補償を行う。一方、小売店や学校は閉鎖しない。

バー、レストラン、クラブなど、リスクの高い施設を補償と引き換えに閉鎖させ、地域社会への広がりを抑えることで、学校の授業を安全に継続させる──つまり、ドイツは日常生活をある程度維持しつつ、パンデミック対策の常識とされてきた戦略を追求しているのだ。

特にバーやレストランは感染拡大の温床だ。ブラウン大学公衆衛生大学院のアシシュ・ジャー学部長が言うように、その閉鎖と補償は「基本中の基本」だろう。「屋内。マスクなし。無礼講。人々は1、2杯飲むと警戒心が薄れ、互いに近づき始める」と、ジャーはMSNBCに語った。

ドイツは学校を継続するために最愛の存在であるビアホールを閉鎖することにしたが、アメリカはほぼ真逆を行っている。

ニューヨークやワシントンのような慎重な都市でも、バーやレストランの屋内での接客を認めている。一方、学校は対面授業の再開がなかなか軌道に乗らず、頻繁に授業を中止したり遠隔学習に移行したりしている。

その結果、多くの生徒が極めて重要な時期に十分な教育を受けられず、親が仕事を犠牲にせざるを得なくなっている。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、学校閉鎖を理由に離職した母親は推定160万人に上る。

なぜこんな状況に陥ってしまったのか。オンラインメディアVOXのマシュー・イグレシアスが指摘するように、州政府や自治体は飲食店の営業継続を求める強い圧力にさらされてきた。経営者は金を稼ぎたい、労働者は仕事がしたい、政治家は税収が欲しいと思っているからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランド家屋被害、ロシアのドローン狙った自国ミサ

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け不安定な展開

ワールド

英、パレスチナ国家承認へ トランプ氏の訪英後の今週
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中