最新記事

民主主義

日米豪印「クアッド」に走る亀裂──多国間連携で「反中国」より大事なこと

2020年10月29日(木)15時45分
グラント・ワイエス(政治アナリスト)

東京で開かれたクアッド外相会議に参加した日米豪印の外相と菅首相(10月6日) Nicolas Datiche/Pool/REUTERS

<アメリカとインドでは与党が民主主義の制約に反発し、利益追求を活動の基本とみなしている。ポンペオ米国務長官はクアッドを「共通の価値観を持つ活気に満ちた多元的な民主主義国家」で構成されていると語ったが>

米カーネギー国際平和基金のアシュリー・テリスは9月下旬、インドのニュースサイト「ザ・プリント」でまっとうな説を展開した。インド政府が今後も国のリベラルな性格を損なう政策を取り続けるなら、他の民主主義国との連携が難しくなるだろうというものだ。

テリスの主張には、もう1つ加えるべき要素がある。10月初めに、オーストラリア、アメリカ、インド、日本の外相が東京で日米豪印戦略対話(クアッド)の外相会議を開いた。だがクアッドのリーダー格であるアメリカでも、自由民主主義が衰退の兆しを見せている。

訪日したポンペオ米国務長官は、クアッドは「共通の価値観を持つ活気に満ちた多元的な民主主義国家」で構成されていると語った。以前なら事実だったかもしれないが、今ではかなりただし書きが付くポイントだ。

クアッドのうちインドとアメリカは、本来の国家の理想に沿うことが難しい状況にある。両国の与党であるインド人民党(BJP)と米共和党は、自国の憲法や政治的枠組みに懐疑的だという意味で「反体制政党」だといえる。

この2つの政党は、ポンペオの言うクアッドの価値観を本気で重視していない。米共和党は民主主義では今回の大統領選に勝ち目がないと見越して、民主主義体制の信用度を落とし、その円滑な運営を妨げようとしている。

選挙で勝っているBJPは、民主主義に挑戦する理由はない。しかし、この政党は元来、リベラルではない。憲法に対しては懐疑的で、立憲主義が設けた制限を軽視する傾向がある。BJPはインド建国の理想と相反する価値観の下で台頭してきた。

そのため米共和党とBJPは、自国の他の政党より実は中国共産党との共通点のほうが多い。共産党のように完全に国を支配しているわけではないが、民主主義の制約に反発しており、露骨な利益追求を活動の基本と見なしている。

この点はクアッドにどこまで影響するのか。「共通の価値観を持つ活気に満ちた多元的な民主主義国家」という言葉は、うたい文句にすぎず、本当に重要なのはクアッドが守ろうとしている現実の問題なのか。つまり大事なのは、価値観より利害なのだろうか。

クアッドの4カ国は、中国について共通の懸念を抱いている。国際交流の自由と平和的共存に役立ってきた規範への脅威だと考えている。

従ってクアッド全体の利害は、その規範を弱体化させる中国の力を抑えることにある。しかし、そうして守られるべきリベラルな国際規範は、本質的にはリベラルな国内規範と一体のはずだ。

ニュース速報

ビジネス

中国第2四半期GDP、比較的高い伸びに=人民銀総裁

ビジネス

キャッシュと債券に資金流入=BofA週間調査

ビジネス

UBS、クレディ・スイス買収の損失保証巡りスイス政

ビジネス

ベトナム輸出、1─5月は前年比12.3%減 スマホ

MAGAZINE

特集:最新予測 米大統領選

2023年6月13日号(6/ 6発売)

トランプ、デサンティス、ペンス......名乗りを上げる共和党候補。超高齢の現職バイデンは2024年に勝てるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    ウクライナの二正面作戦でロシアは股裂き状態

  • 2

    【動画・閲覧注意】15歳の女性サーファー、サメに襲われ6針縫う大けがを負う...足には生々しい傷跡

  • 3

    新鋭艦建造も技術開発もままならず... 専門家が想定するロシア潜水艦隊のこれから【注目ニュースを動画で解説】

  • 4

    ダム決壊でクリミアが干上がる⁉️──悪魔のごとき「焦…

  • 5

    ロシア戦車がうっかり味方数人を轢く衝撃映像の意味

  • 6

    ワニ2匹の体内から人間の遺体...食われた行方不明男…

  • 7

    ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止…

  • 8

    「真のモンスター」は殺人AI人形ではなかった...ホラ…

  • 9

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎ…

  • 10

    性行為の欧州選手権が開催決定...ライブ配信も予定..…

  • 1

    ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止できず...チャレンジャー2戦車があっさり突破する映像を公開

  • 2

    「中で何かが動いてる」と母 耳の穴からまさかの生き物が這い出てくる瞬間

  • 3

    ウクライナの二正面作戦でロシアは股裂き状態

  • 4

    【動画・閲覧注意】15歳の女性サーファー、サメに襲…

  • 5

    米軍、日本企業にTNT火薬の調達を打診 ウクライナ向…

  • 6

    敗訴ヘンリー王子、巨額「裁判費用」の悪夢...最大20…

  • 7

    「ダライ・ラマは小児性愛者」 中国が流した「偽情報…

  • 8

    ロシア戦車がうっかり味方数人を轢く衝撃映像の意味

  • 9

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 10

    ダム決壊でクリミアが干上がる⁉️──悪魔のごとき「焦…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    カミラ妃の王冠から特大ダイヤが外されたことに、「触れてほしくない」理由とは?

  • 3

    「ぼったくり」「家族を連れていけない」わずか1年半で閉館のスター・ウォーズホテル、一体どれだけ高かったのか?

  • 4

    F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官

  • 5

    築130年の住宅に引っ越したTikToker夫婦、3つの「隠…

  • 6

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、…

  • 7

    「飼い主が許せない」「撮影せずに助けるべき...」巨…

  • 8

    預け荷物からヘビ22匹と1匹の...旅客、到着先の空港…

  • 9

    キャサリン妃が戴冠式で義理の母に捧げた「ささやか…

  • 10

    ロシアはウクライナを武装解除するつもりで先進兵器…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中