最新記事

中国

習近平の軍民融合戦略と、それを見抜けなかった日本

2020年10月20日(火)21時48分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

抗日戦争勝利70周年 北京で軍事パレード(2015年9月3日) REUTERS/Andy Wong

習近平は総書記になった瞬間から軍民融合戦略を打ち出して軍の利益集団を倒し、今では米軍よりも軍事力で優位に立っている。だが全てを権力闘争に結び付けた日本のメディアが中国の真相を見えなくした。もう遅い。

習近平の「軍民融合発展戦略」とは

2012年11月15日、第18回党大会一中全会で中共中央軍事委員会主席に選ばれた習近平は、その年の12月23日、軍事委員会常務委員会で「軍民融合は我が軍を建設する基本だ」と言い、12月26日の軍事委員会拡大委員会で過去10年間の(江沢民時代)の軍隊建設を振り返って、「われわれは何としても軍民融合の道を歩まねばならない」と強調した。

2013年3月11日および2014年3月11日、全人代の解放軍代表団全体会議で「軍民融合を国家戦略のレベルに引き上げなければならない」としながらも、「体制的障害と利益集団の存在が障害として立ちはだかっており、未だに融合できない状況が続いている」と、「軍民融合の難しさ」に警鐘を鳴らした。

「軍民融合」とは何かというと、「経済建設と国防建設を一体化して国家の繁栄と安全を守っていこう」というもので、建国以来のソ連式軍事力増強方法からの徹底的な脱却を図ったものである。

旧ソ連では米ソ冷戦の中、アメリカと対抗して短距離的に軍事力増強を優先したために膨大な国防費を使い果たし、かつ軍事産業に関しては専ら国営企業に頼っていたので、膨大な国費の消耗と、国営企業という非能率的な生産体制によって旧ソ連は崩壊したという側面を持つ。

またトウ小平は改革開放を始めると同時に中越戦争を起こし、「引き分け」に終わったとしているが、実際は「勝てなかった」=「敗北している」。そこでトウ小平は無駄な中国人民解放軍を百万人削減して、毛沢東時代に沿海の地を避けて建てられた多くの軍事産業基地を民間工場に転用した。その流れの中で軍民融合を図ろうとしたが、稚拙な産業基盤に、結局はソ連式にしか頼れなかったことから失敗している。

江沢民時代には中共中央総書記と中央軍事委員会主席および国家主席の三大権力を一身に持つに至ったため、政治界に関しては「ぽっと出」の江沢民はたちまち権勢欲と名誉欲そして何よりも金銭欲の虜になってしまい、救いがたいほどの利益集団を形成してしまった。新中国が誕生するまでの中国革命に参加したこともなく、父親が日本軍の傀儡「汪兆銘政権の官吏であった」ことなどから、三つ子の魂百までで性分は変えられず、たちまち金銭欲の虜になり、「軍を中心とした利益集団天国」を創り上げてしまった。胡錦涛政権は「チャイナ・ナイン」(中共中央政治局常務委員会委員9名)の内の6名を江沢民派が占めた上、軍事委員会はみな江沢民の利益集団によって独占されたので、胡錦涛は何もできなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中