最新記事

米中対立

グアムを「州に格上げ」して中国に対抗せよ

Counter China by Making Guam a State

2020年10月19日(月)18時00分
エイク・フライマン

グアムは安全とは言えない状況にあり、その危機は年々高まっている。島の面積のほぼ3分の1を米軍施設が占め、地元経済にとって軍人とその家族の存在は非常に大きなウエイトを占めている。にもかかわらず、グアムは正式なアメリカの「一部」にはなっていない。アメリカの敵も、ハワイのような正式な州を攻撃するのは躊躇するかも知れない。だが「単なる基地の島」という扱いのままであれば、グアムはそうした敵にとっておあつらえ向きの標的になりかねない。

太平洋において紛争が起きれば、グアムのアメリカ人の命はまず最初に犠牲になりかねない。

2015年に初めて公開された中国の中距離弾道ミサイル「東風26」はグアムを射程に収めるため、中国では「グアムキラー」と呼ばれた。17年にドナルド・トランプ米大統領が「炎と怒り」をお見舞いすると北朝鮮を脅したのに対し、北朝鮮はグアム周辺に「包囲射撃」を行うと応じた。これは考えられない事態ではない。グアムは北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星(ファソン)12」の射程内に入っているからだ。

だがグアムの州昇格に向けた戦略的論拠は防衛問題に留まらない。もしグアムが正式な州になれば、インド太平洋地域における自由で開かれた、ルールに基づく秩序をアメリカ政府が本気で守ろうとしている大きな証拠になる。

中国の野望を認めないアメリカの強いメッセージ

アメリカ政府は南シナ海における重要な同盟国であるフィリピンが、親中路線に戦略的な軸足を完全に移すのを防ぐための外交努力を行っているが、グアムの州昇格はその助けになるだろう(フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は16年に訪中した際、『アメリカとの決別』を口にし、西太平洋における経済的・軍事的覇権を『アメリカは失った』とも述べた)。それに日本や韓国、台湾に対しても、危機の際にはアメリカが助けに来るというさらなる安心感を与えることができる。

最後に、グアムおよび北マリアナ諸島の州への昇格は中国政府に対する強いメッセージともなる。中国は最終的にはアメリカをアジアから追い出したいと望んでいる(中国の外交関係者や学者は否定しているが)。そんな中国の望みがかなうことは決してないことをアメリカ政府は明確に示さなければならない。

1944年、マリアナ諸島の奪還作戦が成功した後、2人の米海兵隊員がグアム島の海岸で写真に収まった。手には「グアム侵攻に大きな役割を果たした沿岸警備隊に海兵隊から敬礼。沿岸警備隊のおかげでわれわれはここにいるし、これからも居続ける」と書いた札を誇らしげに掲げていた。

それから80年近くが経過した。アメリカは太平洋の大国であり、グアムを州に昇格させることにより、そのポジションを今後も維持できることを、米連邦議会は認識すべきだ。(筆者は英オックスフォード大学で中国問題を研究している。中国の一帯一路政策を分析した"One Belt One Road: Chinese Power Meets the World"が近く発売予定)。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米大手6銀行、第3四半期の配当金引き上げ計画を発表

ワールド

トランプ氏、フロリダの不法移民収容施設「ワニのアル

ビジネス

サンタンデールが英銀TSB買収、預金残高で英3位の

ワールド

イスラエル、60日間のガザ停戦確定に必要な条件に同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中