最新記事

フィリピン

比マラウィ武装占拠したイスラムテロ組織、新指導者で再編 ドゥテルテと和平結んだ組織にも勧誘

2020年10月18日(日)18時41分
大塚智彦(PanAsiaNews)

このMILFのメンバーにも「マウテ・グループ」によるリクルート作戦の矛先が向けられていることが分かった。MILFのメンバーは元武装組織構成員で、ゲリラ活動や武器の扱い方に慣れていること、約1万人とされるメンバーの中にはまだ武器を所持して非武装化に応じていないメンバー、さらにMILFと政府の和平調印に不満を抱く先鋭的メンバーが存在していることが「マウテ・グループ」にしてみれば「魅力的」であることがリクルート作戦展開の素地となっているという。

このためMILF指導部は「公式にMILFメンバーに対してマルテ・グループなどへの参加を禁止しており、参加しようとしている仲間がいることには失望している」との声明を出すまでになっている。

MILF指導部はメンバーが多数居住するバリンドン、マダラム、ピアガポなどのラナオ地方の各地区でのリクルート活動活発化に特に警戒を呼びかけているという。

頭の痛いドゥテルテ大統領

このようにフィリピンの反政府武装組織、テロ組織は軍や警察による掃討作戦、さらにドゥテルテ政権による和平工作などで戦力低下、組織分断が進んでいる。

その一方で各組織、グループによる新たなリクルートによるメンバー獲得、組織同士の連携と引き抜き、合従連衡、そしてインドネシアのテロ組織などとの国際的なネットワーク構築と「組織、ネットワークの再構築化」に生き残る道を見出す動きが急ピッチで進行している。

こうしたテロ組織や武装グループは10月23日の政府側によるマラウィ市解放記念日に向けて何らかの行動を準備しているとの情報もあることからラナオ地方を中心にしたミンダナオ島各地で治安当局は警戒態勢を強めているとしている。

ミンダナオ島周辺は「アブ・サヤフ」の残党で最重要指名手配中のムンディ・サワジャン容疑者らの潜伏も伝えられており、治安当局やミンダナオ島のダバオ市長も務めたドゥテルテ大統領にとっても頭の痛い状況が依然として続いている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反落、前日高の反動売り トヨタ決算は強弱

ビジネス

午後3時のドルは155円前半へじり高、急落時の半値

ワールド

世界の平均気温、4月も観測史上最高 11カ月連続=

ビジネス

米アマゾン、テレフォニカとクラウド契約 通信分野参
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中