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比マラウィ武装占拠したイスラムテロ組織、新指導者で再編 ドゥテルテと和平結んだ組織にも勧誘

2020年10月18日(日)18時41分
大塚智彦(PanAsiaNews)

サタール容疑者は前任の指導者で武装占拠中のマラウィからやはり脱出に成功したオワイダ・ベニト・マロホムサル(別名アブ・ダル)容疑者の後任指導者となる。

マロホムサル容疑者が2019年3月14日に南ラナオ州ドゥバラン市近くで起きた軍との交戦で他の幹部4人とともに殺害されたため、その後継指導者としての地位をサタール容疑者が獲得したと軍は分析している。

このためマラウィ市武装占拠に関わった「マウテ・グループ」はマウテ兄弟(マラウィでの戦闘で死亡)からマロホムサル容疑者(マラウィ脱出後の戦闘で死亡)を経てサタール容疑者へと指導者が交代してきたことになる。

一方のISと関連が深かった組織はハピロン容疑者(マラウィの戦闘で死亡)からハティブ・ハジャン・サワディン容疑者へと指導者が変わった。

このハティブ容疑者はフィリピンのイスラム教テロ組織「アブ・サヤフ」の指導者の1人ともされ、8月24日のホロ市内で発生した連続自爆テロ事件に直接関わり、現在逃走中のムンディ・サワジャン容疑者とは親族といわれている。

進まないマラウィ市の復興と偽の勧誘

2017年の武装占拠期間中に起きた激しい戦闘でマラウィ市は破壊され、現在も町の復興は依然として進まず、住民は市内への帰還は建物崩壊などの危険があるとして認められていない。

このため国連の統計では約12万5000人の元住民が依然として郊外などに設けられたに避難所での不自由な生活を余儀なくされている。

武装占拠中の戦闘で軍は各種砲撃に加えて空爆まで実施した結果、町の主要な建物はほとんどが破壊され、兵士、武装グループメンバーそして住民ら1000人以上がその犠牲となった。

こうした避難生活を送る市民、特に若い男性に対してSNSを通じて「町の復興や人道支援に関わる仕事に参加しないか」と勧誘が頻繁に来ているという。治安当局によるとこうした勧誘は「マウテ・グループ」や他のテロ組織が偽の団体を装った「リクルート活動」だとして避難民や周辺市町村の若者らに注意を呼びかけている。

モロ解放戦線との関係強化を当局は警戒

武装グループの勧誘、リクルート作戦は別のイスラム教組織にまで及んでいるという。

南部のミンダナオ島を拠点とする「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」のアブドラ・マカパル司令官は地元メディアに対して、MILFのメンバーに対する「勧誘運動」が盛んになっていることを明らかにし、警戒を呼びかける事態となっている。

MILFはイスラム教系テロ組織としてはフィリピンでも勢力、歴史ともに有数だったが、ドゥテルテ政権との間で2014年に和平協定に調印。依然として治安当局との衝突は散発的に続いているとはいえ、現在はメンバーの非武装化と社会復帰のプログラムをNGOなどの協力で進めている。

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