最新記事

人体

若者も子どもも、タイピングより手書きのほうが、脳活動が活発に

2020年10月5日(月)16時45分
松岡由希子

子どもが最低限の手書きの訓練を受けられるようガイドラインを整備すべき、と研究者...... Credit: NTNU / Microsoft

<ノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究で、手書きによって、子どもの学習がすすみ、よりよく記憶できることが明らかとなった>

スマートフォンやタブレット端末、PCといったデジタルデバイスの世界的な普及は、子どもたちの学びにも影響をもたらしている。北欧ノルウェーでは、9歳から16歳までの子どものインターネットの利用時間が1日平均4時間と欧州19カ国で最も長く、学校の教育活動でもデジタル学習により重点が置かれ、子どもたちに手書きの練習をさせない学校もある。

このように子どもの日常生活でデジタル化がすすむなか、手書きによって、子どもの学習がすすみ、よりよく記憶できることが明らかとなった。

手書きの感覚経験が脳の様々な領域との接点を生み出す

ノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究チームは、平均11.83歳の学童12名と平均23.58歳の若者12名の被験者に250個以上の電極が付いたヘッドセット式脳波計を装着させ、スクリーンに表示されたワードを筆記体で手書きしているとき、キーボードでタイピングしているとき、フリーハンドで描いているときのそれぞれのケースで、脳の電気的活動を追跡・記録した。

whywritingby.jpgCredit: NTNU / Microsoft

これによると、若者も子どもも、タイピングしているときよりも、手書きしているときのほうが、脳活動が活発であった。一連の研究成果は、2020年7月28日、学術雑誌「フロンティアーズ・イン・サイコロジー」で公開されている。

研究論文の責任著者でノルウェー科学技術大学の発達神経心理学者オードリー・バンデルメーア教授は「ペンと紙を使うことで、記憶とをつなぐ『フック』がより多く脳に与えられる。ペンで紙を押し付けたり、手書きした自分の文字を見たり、手書きしている最中の音を聞いたりすることで、多くの感覚が活性化され、これらの感覚経験が脳の様々な領域との接点を生み出し、学習のために脳を開放する。このような作用によって、よりよく学び、より記憶できるというわけだ」と解説する。

最低限の手書きの訓練を受けられるようガイドラインを整備すべき

手書きと脳との関係については、2012年に発表された米インディアナ大学の研究成果で幼児の脳発達への手書きの効果が示されているほか、2017年の仏エクス=マルセイユ大学らの研究論文では、手書きにまつわる神経回路網の仕組みが解明されている。

バンデルメーア教授は、学校教育の過度なデジタル化によって次世代を担う人々の手書き能力が損なわれるのではないかと危惧し、子どもたちが最低限の手書きの訓練を受けられるよう、国のガイドラインを整備する必要があると提唱している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

チェコ、来月3日に連立合意署名へ ポピュリスト政党

ワールド

日中、高市首相と習国家主席の会談を31日開催で調整

ビジネス

トランプ氏「ガザ停戦脅かされず」、イスラエルは空爆

ワールド

エベレスト一帯で大雪、ネパール・チベット両側で観光
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中