最新記事

脱北者

カナダが脱北者の難民申請に冷淡になったのはなぜ?

After Canada Denies Asylum, Kim John Il’s Former Bodyguard Fears He’ll Be Killed

2020年9月3日(木)17時10分
マシュー・インペリ

李はソウルに移ってからも2004年と2007年の2度誘拐されそうになったというが、警察に被害を届け出たのは2014年で、韓国の法律で5年の時効が過ぎた後だったため、事件は捜査されなかったと話している。

移民難民委員会が疑問視したのは、李がすぐに警察に知らせなかった点だ。「誘拐されそうになり、命の危険があると感じたとすれば、事件後何年も警察に届けなかったのはおかしい」と、ロイドはスター紙に語った。

こうした状況から、李が「韓国で迫害されるか、拷問や命の危険、あるいは残酷な仕打ちや異常な扱い、罰を受ける危険」にさらされるような「重大なリスク」はないと、委員会は判断したと、ロイドは説明した。

人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア支部副部長、フィル・ロバートソンは本誌宛のメールで、「李英國は北朝鮮の政治犯収容所で生死に関わる状況を生き延びた。カナダ政府はどういうわけかその証言の信憑性を疑っている。これには驚くほかない」と述べた。

北朝鮮に引き渡されることも

「韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、北朝鮮指導部の態度に振り回されつつも、何とか南北和解を達成しようと躍起になっており、そのために自国にいる脱北者への締め付けを強化している」と、ロバートソンは指摘する。

「韓国に送還されたら、どんな扱いを受けるか分からないと、李が不安に思うのは当然だ。とりわけ危惧されるのは、金正恩が李の身柄引き渡しを要求することだ。いかなる状況下でも李の身柄を北朝鮮に引き渡すことはないと文書で確約されない限り、どこの国に対しても、カナダは李の送還を検討すべきではない」

報道によるとここ数年、カナダは脱北者の難民認定に厳しくなり、いったん難民として受け入れた後も国外追放にする例が増えている。実際は韓国に定着し安全に暮らしていたことが明らかになったり、すでに韓国籍を取得しながらそのことを隠して難民申請をする場合もあったからだという。李の場合もそのような疑いがあった可能性もある。

本誌はカナダの移民難民委員会にこの件についてコメントを求めたが、現時点では回答はない。

【話題の記事】
中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?
地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される
ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由
ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死

20200908issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月8日号(9月1日発売)は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。主導国なき「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く、米中・経済・テクノロジー・日本の行方。PLUS 安倍晋三の遺産――世界は長期政権をこう評価する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バングラ総選挙、来年2月に前倒しの可能性 ユヌス首

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中