最新記事

脳科学

イーロン・マスクが進める「脳とコンピュータをつなぐ技術」、ここまで来た

2020年9月2日(水)17時00分
松岡由希子

イーロン・マスクは、ニューロテクノロジー企業「ニューラリンク」の成果を発表した...... neuralink

<イーロン・マスクは、ヒトの脳とコンピュータをつなぐ「ブレイン・マシン・インターフェイス」の開発に取り組んでいるが、これまでの開発成果を発表した......>

約20年にわたって次世代型モビリティ、再生可能エネルギー、宇宙といった壮大なテーマに果敢に挑戦してきた米国の起業家イーロン・マスクは、2016年7月、ニューロテクノロジー企業「ニューラリンク」を新たに創設し、ヒトの脳とコンピュータをつなぐ「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」の開発に取り組んでいる。2020年8月28日には、オンラインで配信されたライブイベントに自ら登壇し、これまでの開発成果を発表した。

ニューラリンクは、ブレイン・マシン・インターフェイスを頭に埋め込み、記憶障害、難聴、抑うつ、不眠、依存症、脳卒中、麻痺、発作など、様々な神経疾患を解決することを目指している。視覚、聴覚、痛覚など、私たちのあらゆる感覚は、ニューロン(神経細胞)からの電気信号で脳に伝えられている。ニューラリンクでは、これらの電気信号を可視化し、修正することで、神経疾患の治療に役立つのではないかと考えている。

l_yu_link1.jpgneuralink

また、マスク氏は、今後、ブレイン・マシン・インターフェイスによって、人々がテクノロジーを使用して記憶を保存し、再生できるようになると信じ、「記憶をバックアップとして保存できるかもしれない。新しい身体やロボットの身体にダウンロードすることができるかもしれない」と語っている。

埋め込み型デバイスのプロトタイプを披露、手術ロボットも独自に開発

このライブイベントでは、埋め込み型デバイスのプロトタイプ「リンク0.9」が披露された。幅23ミリ、厚さ8ミリのコイン大の「リンク0.9」は、1024本の電極を持ち、6軸慣性測定ユニット(IMU)、体温センサー、血圧センサーなどが搭載され、内蔵バッテリーで丸1日動作し、Bluetoothによって無線通信する。

Neuralink-pig2020.jpgneuralink

マスク氏が「小さなワイヤがついた頭蓋骨版のFitbit(ウェアラブル活動量計)だ」と称するように、頭蓋骨に小さな穴をあけて埋め込むだけで、ユーザーは、ほぼ違和感なく日常生活を送りながら、ニューロンからの電気信号をリアルタイムで可視化し、記録し、健康状態などをモニタリングできる仕組みだ。

ニューラリンクでは、「リンク0.9」を頭蓋骨に埋め込むための手術ロボットも独自に開発。この手術ロボットを用いることで、1時間程度で「リンク0.9」の埋め込み手術が完了し、手術当日に退院できる。また、一度埋め込んだ「リンク0.9」を取り外したり、アップグレード版に取り替えても、身体に損傷をもたらすリスクはないとされている。

_musklink.jpgneuralink

ブタに「リンク0.9」を埋め込んで実験

3匹の子ブタを使った「リンク0.9」のデモンストレーションも実施された。一度埋め込まれた「リンク0.9」が取り出された後の子ブタは、「リンク0.9」を埋め込まれていない子ブタと同様に、元気に動き回っている。また、2ヶ月間にわたって「リンク0.9」が埋め込まれている子ブタは、匂いを嗅ぎまわって何かに触れるたびに、「リンク0.9」によってニューロンの活動電位が検出され、コンピュータが音を発し、モニターでは、1024本の電極からの活動電位が絶えず変化する様子が表示された。

gertrude-pig-neuralink.jpgneuralink

ニューラリンクでは、2020年7月、アメリカ食品医薬品局(FDA)から「画期的機器」の指定を受けた。今後、ニューロサイエンスやロボット工学、電子工学、生物学など、様々な分野にわたって有望な人材を積極的に採用し、さらなる開発と臨床試験をすすめていく方針だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

与党「地滑り的勝利」で高市トレード再開へ、日経6万

ワールド

高市首相、消費減税「やった方がいいと確信」 改憲は

ワールド

自民単独300議席超、「絶対安定多数」上回る 維新

ビジネス

自民大勝でも「放漫財政にならない」=片山財務相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 6
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中