最新記事

ベラルーシ

「ルカシェンコ後」のベラルーシを待つ危険過ぎる権力の空白

A Hard and Fast Fall

2020年8月25日(火)18時15分
デービッド・パトリカラコス(ジャーナリスト)

23日に首都ミンスクの広場に集まった人々。独立から数年間使われた白と赤の旧国旗は反ルカシェンコ政権のシンボル Vasily Fedosenko-REUTERS

<長期独裁政権の不正選挙にベラルーシ国民の怒りが爆発──退陣は秒読みだが、勢いのあるチハノフスカヤはあくまで「暫定指導者」。権力の空白につけ込む存在とは>

あいつは終わりだ! この状態から復活するのは誰であっても不可能だろう──。

暗号化チャットアプリで、そんなメッセージが筆者の元に届くようになったのは、8月9日のベラルーシ大統領選の約1週間後のこと。「あいつ」とは、今回6選を決めたとされるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領のことだ。

選挙は、逮捕された反体制活動家の夫の代わりに出馬した英語教師のスベトラーナ・チハノフスカヤ(37)と、ルカシェンコの一騎打ちだった。10日午前に選挙管理当局がルカシェンコの勝利を発表すると、多くの市民が不正選挙だと抗議してデモを始めた。

治安部隊が出動して沈静化が図られたが、抗議の声は大きくなるばかり。そこで16日、ルカシェンコは数百人規模の集会を開いて、自らの人気を証明することにした。だがその光景は、どこか現実離れした滑稽なものだった。

「自由が欲しいか?」
「ノー!」

「変化が欲しいか?」
「ノー!」

「改革が欲しいか?」
「ノー!」

独裁体制は、はたから見ると滑稽なことが多い。恐怖政治によって覆い隠されているが、人々が恐れるのをやめると、滑稽さだけが残る。そのときが終わりの始まりだ。

ルカシェンコは、17日にも首都ミンスクのトラクター工場で演説をしたが、逆に労働者の激しいやじを浴びた。ごく最近まで「ヨーロッパ最後の独裁体制」と呼ばれ、難攻不落に見えた政権に、いったい何が起きたのか。

ソ連解体により独立国家となったベラルーシで、ルカシェンコが初代大統領に就任したのは1994年のこと。以後、ベラルーシでは今回を含め計5回の大統領選が行われてきたが、いずれもルカシェンコが勝利を収めた。

ただし、これまでは比較的難なく勝利を収めてきたルカシェンコだが、今回は違った。それは、チハノフスカヤが従来の候補者とは大きく異なる公約を掲げたから、そして国民が26年に及ぶルカシェンコ体制に辟易していたからだ。

選挙監視員を閉め出し

投票日が近づくにつれて、チハノフスカヤ旋風が勢いを増していることは、誰の目にも明らかだった。それなのに当日、投票時間が終了するや否や、ルカシェンコが得票率80%で「当確」とする出口調査が発表された。チハノフスカヤの得票率はわずか10%だという。

このあからさまな不正が、市民の不満を爆発させた。ルカシェンコの得票率が55%とか45%とされていたら、状況は違っていたかもしれない。

【関連記事】ロシアがベラルーシに軍事介入するこれだけの理由
【関連記事】ベラルーシ独裁の終わりの始まり──新型コロナがもたらす革命の機運

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ財務省、今年の経済成長率予想を2.2%に小幅上

ビジネス

中国製造業PMI、7月は49.3に低下 4カ月連続

ワールド

米、カンボジア・タイと貿易協定締結 ラトニック商務

ワールド

交渉未妥結の国に高関税、トランプ氏が31日に大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中