最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

コロナでグローバル化は衰退しないが、より困難な時代に突入する(細谷雄一)

2020年8月25日(火)11時40分
細谷雄一(慶應義塾大学教授、国際政治学者)

コロナ禍で米中間の相互不信が増幅され、国際協調はさらに退潮している LEAH MILLIS-REUTERS(RIGHT), NOEL CELIS-POOL-REUTERS (LEFT)

<コロナ禍で人と物の往来が止まり、世界は「脱グローバル化」していくとも言われるが、どんな影響があるのか。11人の識者がその行く末を占う本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集から、細谷雄一・慶應義塾大学教授の論考を公開。ナショナリズムとグローバリズムは振り子のように推移してきた──>

国境を越えた人の往来が消えた。新型コロナウイルスの感染拡大が最も深刻化していた3月から4月にかけては、グローバルなサプライチェーン(原材料や部品の調達から製造、消費者の手に届くまでの流れのこと)が機能麻痺をした。
20200901issue_cover200.jpg
3月5日に開かれた政府の未来投資会議で、安倍晋三首相はそのような状況を受けて、「一国への依存度が高い製品で付加価値が高いものはわが国への生産拠点の回帰を図る」と述べ、その後4月の補正予算では、中国から日本にUターンする企業に向けた2200億円の移転費用のための会計を盛り込んだ。かつてのグローバル・サプライチェーンは後退していき、大量の人や物が国境を越えて動くグローバル化の時代は終わりつつあるのだろうか。

国際政治学者の一部は、従来われわれが見慣れてきた形でのグローバル化が、もはや終わりを迎えようとしているのではないかと論じている。確かに国境を越えた人の往来は、大きく制約されている。他方で、感染拡大が落ち着き、経済活動が復活しつつあるなかで、再び物流が動き始めている。

多くの企業は、果たしてこれからの経営戦略として、生産拠点を中国から国内へ回帰させるべきか、あるいは今後の中国の経済成長と市場規模を見込んで中国との取引を重視していくべきかという困難な選択を強いられている。国家も企業も、長期的な戦略を検討する上で、予測困難な未来をある程度見通さなければならない。

世界史の逆流は以前から

まず、確認しておきたいことがある。既に、コロナウイルスの感染拡大が進行する前から、グローバル化の後退を語る論考が少なからず見られたことである。すなわち、冷戦終結直後に語られていた、世界が「一つ」になるという楽観的なグローバル化への期待が、現在大きく後退していたのである。それはどういうことであろうか。

ドイツの若き俊英の哲学者、マルクス・ガブリエルは『世界史の針が巻き戻るとき』(2020年、PHP新書)において、「今日、移民問題や財政問題などを契機に、ヨーロッパではまさに『国民国家の復活』が起きています」と論じ、「何が理由であれ、古き良き十九世紀の歴史が戻ってきています」と述べている。

同様に、アメリカの保守を代表する論客であるロバート・ケーガンも2008年には、国家間の対立が顕著となった現実を直視して、次のように論じていた。「利害の衝突と大国の野望が、新世界秩序に代わる同盟と反同盟の構図をつくり、一九世紀の外交官にはおなじみの移ろいやすい同盟関係をもたらした」(『民主国家vs専制国家 激突の時代が始まる』徳間書店)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

S&P中国製造業PMI、7月は49.5に低下 輸出

ビジネス

丸紅、25年4─6月期は8.3%最終増益 食品マー

ビジネス

マクロスコープ:ディープシーク衝撃から半年、専門家

ビジネス

マクロスコープ:ディープシーク衝撃から半年、専門家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中