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米で増える「保育難民」 働くママにコロナ禍の試練

2020年8月14日(金)12時03分

新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)が保育サービスに大きな打撃を与えたことで、特に母親を中心に、米国の親たちの多くは厳しい選択に直面している。写真は7月、ニューヨークのブルックリン地区で息子と写真撮影に応じるシャンテル・スプリンガーさん(2020年 ロイター/Brendan McDermid)

ダイニングルームのテーブルに置いたコンピューターで「Zoom」を使った会議が始まった。しかし、その最中でも、ゾラ・パネルさんは1歳の娘サバンナちゃんをあやすためにビデオをオフにする。新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務が続く中、それが彼女の日常になっている。 

パネルさんは3月以来、在宅勤務の傍ら、サバンナちゃんと2歳の息子ティモシーちゃんを何とか育てている。彼女が外国語学習サービス企業のマネジャーという新たな仕事を始めたのは、ちょうどオハイオ州が新型コロナウイルス感染拡大を抑えるために「ステイホーム」命令を出した週のことだった。

経済再開、オフィス復帰が心配

育児をしながらの在宅勤務で疲弊する日々だが、パネルさんがむしろ心配しているのは、そろそろオフィスに復帰するようにと言われることだ。夫は地元の製鉄所で働いており、日中は子どもの世話をするのは無理だ。だがパネルさん夫妻が暮らすクリーブランドの東の端、シェイカーハイツにある集合住宅の近くには、安心できて料金も手頃な保育施設は見つかっていない。

「ワーキングマザーだということで罪を受けているように感じている」と30歳のパネルさんは言う。彼女はいま、在宅勤務を続けられなければ仕事を辞めざるをえないかもしれないと懸念している。「どちらに転んでも辛い」

新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)が保育サービスに大きな打撃を与えたことで、特に母親を中心に、米国の親たちの多くは厳しい選択に直面している。打撃を被った経済の回復をめざし、各州が労働者の職場復帰に向けた政策を推進していることも、困惑をいっそう深めるだけだ。

費用も高く容易には見つからない保育施設を探し回れば、なお国内の大半で猛威を振るっている新型コロナに家族が感染する可能性もある。とはいえ、仕事を減らす、あるいは辞めてしまえば、家計の安定が脅かされる。

子供を預けたくても施設が見つからない「保育難民」。そうした現実は、女性の社会進出が近年もたらしている経済効果を停滞させ、あるいは逆転させるリスクがある。複数の研究が示しているように、保育サービスを利用できない場合、男性よりも女性の方がキャリアの点で打撃を被る可能性が高いからだ。

ノースイースタン大学が5月10日から6月22日にかけて行った調査によれば、今回の医療危機のあいだ、共働きの両親のうち13%が保育サービスの不足のために仕事を減らすか辞めることを余儀なくされ、男性よりも女性の方がはるかに強い影響を受けた。育児上の問題のために失業したという回答者のうち、女性が全体の60%を占めた。

全米女性司法支援センターで育児・早期教育研究ディレクターを務めるカレン・シュルマン氏は、「保育サービスがなければ、女性は職場に戻れない」と語る。もし女性の職場復帰がなければ、「結果的に非常に大きなジェンダー不平等をもたらすシステムが生まれてしまう」

25~54歳の女性の労働参加率は2015年9月には73%だったが、パンデミック前の2月には77%に達し、2000年に記録したピーク時に迫った。労働力に占める女性の比率は2000年頃に横這いに転じたが、専門家によれば、その理由の一端は、妥当な料金の保育サービスへのアクセスに限界があったためだという。


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