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武漢パンクはコロナで死なず──ロックダウンがミュージシャンにもたらした苦悩と決意

CAN WUHAN PUNK SURVIVE THE CORONAVIRUS?

2020年8月13日(木)13時30分
カイル・マリン

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武漢の若い世代のバンド「ドリーミー」のステージ COURTESY OF CHEN

ステージ上の呉維はまさに野獣のように暴れ回る。ステージ外でも、早朝の街を裸で駆け抜けるパフォーマンスをやったりする。地元の保守的な大人たちは顔をしかめるが、一対一で話せば実に気さくで誠実な人物だ。業界では「ブラックユーモアと胸を打つ歌詞で闘う」ソングライターとして知られる。

今の若いミュージシャンたちは、彼の強烈な歌詞に深い影響を受けている。前出のバンド如夢の陳も、SMZBには「勇気を持って真実を歌う」曲が多いので「大好きなバンドの1つ」だと言う。新進気鋭の武漢バンド「パニック・ワーム」でギターを弾く春雷(チュン・レイ)は、「初めて武漢に来た頃の自分に強さをくれたのがSMZBの曲だった」と語る。

若い世代だけではない。武漢のSMZBに続けとばかり、南京で1997年に生まれたポストパンクバンド「P.K.14」のリーダー楊海崧(ヤン・ハイソン)もその1人だ。彼はSMZBについて、仲間内でもとりわけ政治的な反逆精神に満ちていたと語る。「90年代中国のアングラバンドは、だいたいどこも世の中に反発していた。もちろん武漢のパンクも、そのムーブメントの一部だった」

楊はさらに、呉維率いるSMZBのファーストアルバム『生命之餅』について、自分たちの抑圧された街の雰囲気を痛いほどに捉えていると評価し、SMZBは「武漢、そして中国全体のパンクバンドで最高の部類に入る」と絶賛した。

「革命誕生の地」としての誇り

デビューから20年以上を経ても、呉維とSMZBは鮮烈さを失っていない。この6月には、最新アルバム『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ジ・イースト』を完成させた。香港で中国共産党の強権支配に抵抗しているデモ隊にささげた曲も含まれるという。中国政府がこれまで以上に反体制派の弾圧を強化している今、そのようなテーマを扱うのは無謀にも思えるが、呉維は意に介さない。「自分の書いた歌詞が問題になるとも反逆的だとも思わない」と彼は言った。「普通の人間が言いたいことを言っているだけだ」

そのとおりだろうが、呉維が筋金入りの反体制派であることも事実。有名な人権擁護宣言「08憲章」にも署名している。この憲章の起草者である劉暁波(リウ・シアオポー)はノーベル平和賞を受賞したが、収監され事実上の獄死を遂げた。呉維は投獄こそされなかったが、今も彼の電話は当局によって厳しく監視されている。

10年前には、同じ武漢のミュージシャンである麦巅(マイ・ティエン)らと一緒に、由緒ある東湖地区の再開発を阻止する運動も立ち上げた。アート&カルチャー誌「ラディー」によれば、彼らはそのために「地元当局から多くの嫌がらせを受けた」が、それでもめげることなく東湖地区の景観保存について話し合う場を設け、再開発工事を記録するプロジェクトを組織するなどして奮闘したという。

こうした抵抗のエピソードは、中国で「最もタフな町」という武漢の昔からのイメージにも即している。武漢では1911年に多くの地元住民が清朝の支配に反旗を翻して武装蜂起した。これが辛亥革命の幕開けとなり、中国最後の皇帝を追い落とすことにつながった。武漢のアングラミュージシャンは、自分たちには今も辛亥革命の精神が息づいていると誇らしげに語る。

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