最新記事

教育

日本は事実上の「学生ローン」を貸与型の「奨学金」と呼ぶのをやめるべき

2020年8月5日(水)13時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

日本を見ると、奨学金が全体の0.7%、学生ローンが28.5%と、後者が圧倒的に多い。日本国内では「奨学金」という名称だが、国際統計でははっきりとローンと表記されている。アメリカでは、学生対象の公的支援の大半がスカラシップだ。学費が高い国だが、こういうサポートで助けられている。フランスやフィンランドは、学生への公的支援の100%がスカラシップだ。

水色を付けた、学生対象の公的支援の2カテゴリーの内訳をグラフにすると、スカラシップかローンかが明瞭になる。後者の比重が高い順に30カ国を並べると<図2>のようになる。

data200805-chart02.png

数の上では、スカラシップの国が多い。30カ国のうち11カ国が、青色のスカラシップ一色だ。南米のチリや韓国がちょうど半々くらいで、日本、イギリス、アイスランドの3カ国はほぼ全てがローンとなっている。

<表1>を見ると、日本は高等教育への公的支援支出のうち、学生を対象とした部分のシェアが比較的大きいのだが、そのほぼ全てがスカラシップではなくローンであることに注意しなければならない。国際標準の呼び名では、日本でいう奨学金はまぎれもなくローンだ。

上述のように「奨学金って返すんですか」と驚く学生もいるのだが、子どもが知らぬうちに勝手に手続きをしてしまう親もいそうで怖い。高校の進路指導では、申請書類の現物を見せて生徒本人に事実をしっかり伝えて欲しい。

上記は10年前のデータで、一昨年から給付型奨学金が導入されたため、最近では日本でもスカラシップの比重が増しているはずだ。しかし対象は低所得世帯に限られ、現時点では貸与型が圧倒的多数だ。両者を一緒くたにして「奨学金」と呼ぶのは止め、給付型を「スカラシップ」、貸与型を「ローン」と呼び分けるべきだ。

日本学生支援機構にすれば、自分たちのことを金貸しみたいに思われたくないので、及び腰になるのかもしれない。もしそうなら、本当のスカラシップの枠を増やすことだ。若者が道を踏み外すのを防ぐためにも、正直に言って欲しいと思う。

<資料:OECD「Education at a Glance 2013」

<関連記事:少子化で子どもは減っているのに、クラスは相変わらず「密」な日本の学校

【話題の記事】
・【独占】押谷仁教授が語る、PCR検査の有用性とリスクとの向き合い方
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・ロシア国立研究所、コロナワクチンの臨床試験が終了 10月から接種開始へ
・韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット 一方で「TPOをわきまえろ」と論争に

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米「MSNBC」が「MS NOW」へ、コムキャスト

ビジネス

米8月住宅建設業者指数32に低下、22年12月以来

ワールド

ハマス、60日間の一時停戦案を承認 人質・囚人交換

ワールド

イスラエル、豪外交官のビザ取り消し パレスチナ国家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中