最新記事

Black Lives Matter

日本人が知らない、アメリカ黒人社会がいま望んでいること

WHERE DO WE GO FROM HERE?

2020年7月15日(水)17時05分
ウェスリー・ラウリー(ジャーナリスト、元ワシントン・ポスト警察司法担当記者)

パトリック・ングォロ牧師は午後5時過ぎにバスケットボールのハーフコートで待っていた。ヒューストンの熱い空気のなか、子供たちがボールをドリブルしていた。このコートは市で最大の公営団地クニーの中心部にあり、ゴール下には「ジョージ・フロイド」の名前がスプレーでペイントされていた。

クニーは600戸の巨大な低層団地で、褐色と赤の外壁から「レンガ」と呼ばれる。団地は黒人の政治と文化の中心地であるヒューストンの第3区に位置している。ずっと前から黒人のアーティストや作家、政治家を輩出しており、あのビヨンセもここの出身だ。

黒人のためにつくられたテキサス・サザン大学から団地と自動車整備工場や酒屋が続くこの一帯は「ザ・ボトムズ」と呼ばれている。故ジョージ・フロイドはザ・ボトムズでよく知られた存在で、団地の端にある白い平屋の家に住んでいた。

ングォロが数年前に教会を開設したとき、フロイドの母親は団地の住民理事会の役員で、バスケットボールコートで教会の奉仕イベントを開催する許可を取る手伝いをした。その後、フロイド自身も協力を申し出て、もしも誰かに邪魔されたら俺の名前を出せと言ってくれた。

「彼は多くの人を導き、助言を与えた」。46歳のフロイドは町の長老格だったとングォロは言う。多くの男性が10代で命を落とす町の一角で、フロイドは孫の顔を見るほどに長生きをした。「3区の住民はみんな、偉大なフロイドを知っている」

ングォロと私は少し歩いて、フロイドをよく知る青年J・R・トーレス(27)に会いに行った。トーレスの妹はフロイドの親友との間に子供がいる。あの日、トーレスはインスタグラムで動画を見たが、被害者の名は確認していなかった。

その後、妹がメールで、警察がフロイドを殺したと知らせてきた。そこで初めて、トーレスは動画の中で死んでいく男がいつも励ましの言葉を口にし、トラブルに巻き込まれるなと言っていた近所の住人だったことに気付いた。

私たちはトーレスの白い車に乗って団地の反対側に行き、追悼の場になっている壁に到着した。天使の翼を付けたフロイドの姿が描かれていた。献辞には「偉大なフロイドを思い、愛を込めて」とあった。

追悼の壁には30人ほどが集まっていた。近づいてみると車のボンネットに乗った男がいた。地元出身の有名ラッパー、レナード・マッゴーウェンだ。「問題は警察よりずっと大きいと思う」と彼は言った。

マッゴーウェンはフロイドとは昔からの知り合いで、子供の頃はフロイドの甥の一人とよく遊んだ。あの動画は、最後までは見ていられなかった。「大統領を見ろ。あの狂った発言を。警察よりずっとひどい。警察は奴らの手先だ。連中はバッジを着けているから、俺たちに好き勝手ができる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中