最新記事

Black Lives Matter

日本人が知らない、アメリカ黒人社会がいま望んでいること

WHERE DO WE GO FROM HERE?

2020年7月15日(水)17時05分
ウェスリー・ラウリー(ジャーナリスト、元ワシントン・ポスト警察司法担当記者)

不利な構造から抜け出せない

この地区の住民は活動家と同じ言葉を使わないし、同じ思想的な枠組みで考えもしない。しかし同じことを望んでいるのは明らかだ。暴力、特に警察の暴力からコミュニティーを守りたいと思っている。

彼らはこの国の構造が自分たちに不利なことを知っている。おんぼろ住宅に閉じ込められ、荒れ果てた学校に人種別に隔離され、高等教育や給料のいい仕事には手が届かない。彼らは困難と欲求不満だらけの生活を送り、彼らを理解しない警察に見張られている。

30分ほど話した後、私たちはコートに戻り、トーレスに話を聞いた。彼はこの「レンガ」で育ち、近所の高校に進んだ。カウンセラーや教師の手助けで、近くのコミュニティーカレッジに入学したが、長くは続かなかった。授業の初日に、教室にたどり着けず、やる気をなくしたのだ。

その数日後、トーレスは警察に逮捕され、マリフアナ所持で起訴された。刑務所で 1週間を過ごし、高等教育を受ける望みは捨てた。それからは半端仕事ばかりの人生で、レンガを離れることはできそうもない。

「そいつを何とかしたいと、みんなが思わなければ始まらない」。トーレスの言う「そいつ」とは、全てのアフリカ系アメリカ人にとって不利な社会構造のこと。「みんながそいつを正そうと思わなければ、正すことはできない」

で、みんながそうしたがっていると思いますか? そう聞くと、トーレスは言った。

「思わないね、全然」

(筆者は「フェイタル・フォース」プロジェクトでピュリツァー賞を受賞。2014年から今年2月までワシントン・ポスト)

<2020年7月7日号「Black Lives Matter」特集より>

【話題の記事】
コロナ禍なのにではなく、コロナ禍だからBlack Lives Matter運動は広がった
中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか
ブラック・パンサーの敗北がBLM運動に突き付ける教訓
中国のスーパースプレッダー、エレベーターに一度乗っただけで71人が2次感染

20200707issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)

20200721issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

4月の世界食料価格は1%上昇 穀物や乳製品上昇 砂

ビジネス

米アップル、2年ぶり起債で45億ドル調達

ビジネス

訂正-NY外為市場=ドル下落、アジア通貨に対し軒並

ビジネス

米フォード、通期予想を撤回 トランプ関税は15億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 3
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どちらが高い地位」?...比較動画が話題に
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    背を向け逃げる男性をホッキョクグマが猛追...北極圏…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 7
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中