最新記事

感染症

アフリカで進行する「静かな感染拡大」 深刻な新型コロナのデータ不足

2020年7月12日(日)12時30分

新型コロナウイルスの検査数など信頼できるデータの不足はアフリカ諸国の多くに共通する問題だ。トラック運転手の検査を準備するケニア衛生当局の医療従事者。5月12日、ケニアとタンザニアの国境で撮影(2020年 ロイター/Thomas Mukoya)

タンザニアのジョン・マグフリ大統領は4月中旬、新型コロナウイルスから国が守られるよう、全国的に3日間の祈りを捧げることを呼びかけた。だが1カ月も経たないうちに、大統領は新型コロナに対する勝利を宣言し、東アフリカに位置する自国への観光再開を呼びかけた。

世界保健機構(WHO)は、5500万の人口を擁するタンザニアは東アフリカ地域でも最も医療システムが脆弱な国の1つで、国内でのウイルスまん延についてはほとんど情報がないと警告していた。

信頼できるデータの不足はアフリカ諸国の多くに共通する問題だ。国によっては、政府が感染症の拡大を認めたがらない、あるいは崩壊にひんした医療システムが他国による検証にさらされるのを嫌がる場合もある。また、貧困と紛争によって疲弊し、そもそも相当規模の検査を行う力がない国もある。

アフリカにおける新型コロナ対策には、計画策定の点でも資金支援を募るという点でも情報の共有が不可欠だと公衆衛生専門家は指摘する。現状では、アフリカ大陸全域での感染の深刻さを十分に評価することは不可能である。

ロイターが収集した最新のデータによれば、人口13億人を抱えるアフリカ大陸では、新型コロナの感染確認者は49万3000人、死者は1万1600人となっている。これに対し、人口が約半分のラテンアメリカでは、感染者290万人、死者は12万9900人となっている。

公式数値だけ見るとアフリカの大半では新型コロナ禍を免れているようだが、もっと悪いのは確実だ。WHOのサンバ・ソウ特使は5月25日、検査に重点を置かなければ、「静かな感染拡大」の可能性が生じると警告している。

アフリカ連合が2017年に設立したアフリカ疾病予防管理センター(CDC)のデータをロイターが分析したところ、アフリカ大陸全体では、7月7日までに人口100万人当たり4200件の検査が行われている。これに対し、アジアでは同7650件、欧州では7万4255件だ。

医療従事者、外交官、現地当局者数十人に対するインタビューから明らかになったのは、大半のアフリカ諸国で信頼性の高い検査がほとんど行われていないという問題だけではない。一部の政府は、たとえ資金援助を受ける機会を逸することになろうとも、感染率に関する情報が表面化することを防ごうと手を尽くしているのだ。

WHOアフリカプログラムの緊急対応責任者マイケル・ヤオ氏はロイターに対し、「その国の意図に反して支援することはできない」と語った。「国によっては、対策会議を開いているのに我々に声を掛けないところもある。専門的なアドバイスに関しては我々が主役だと想定されているのだが」

WHOとしては各国政府との協力関係を維持しなければならないとして、ヤオ氏は特定の国の名を挙げることは控えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は小幅続落、ファーストリテが320円押し下

ビジネス

英GDP、5月は前月比-0.1% 予想外に2カ月連

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

良品計画、8月31日の株主に1対2の株式分割
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中