最新記事

香港の挽歌

香港の挽歌 もう誰も共産党を止められないのか

‘NOBODY CAN SAY NO TO BEIJING’

2020年7月7日(火)11時20分
デービッド・ブレナン(本誌記者)

magSR200707_HK6.jpg

習近平をはじめ政府の要人が一堂に会した中国人民政治協商会議 XINHUA/AFLO

中国経済に占める香港の地位は、イギリスから返還された1997年当時に比べると、はるかに低くなっている。あの頃は香港経済が中国全体の18%を占めていたが、今は3%程度だ。規模の問題で言えば、仮に香港を失っても中国経済は揺るがない。

それでも、香港が世界有数の金融センターであるのは事実だ。英王立国際問題研究所の上級研究員で香港に駐在するティム・サマーズに言わせれば「香港は間違いなく中国にとって重要な場所」であり、「それは中国の指導部も承知している」。

各国の企業や投資家は今日まで、一国二制度の約束を信じればこそ香港に巨費を投じてきた。しかし本土並みの国家安全法が施行された今、その大前提が揺らいでいる。

ドイツ銀行のエコノミストでアジア太平洋地域を担当するマイケル・スペンサーによれば、今のところ各国企業に動揺は見られない。「政治状況の悪化が香港脱出を決断させる段階まで来たとは、まだ思っていないようだ」と、彼は言う。つまり、まだ差し迫った脅威は感じていない。しかし「企業活動や経済について自由に話せないことに気付いたら、投資家はどこか別の自由に話のできる場所に移っていく」だろう。

「国際金融センターとしての香港の将来に関わる問題の核心は、情報の自由な流れが妨げられていることに人々がどの段階で気付き、事業拠点を移し始めるかにある」と、スペンサーは言い切る。

外国の資本が逃げていけば香港経済は縮小し、そこに暮らす人々が豊かになれるチャンスは減る。そして国際的な商取引や国際社会における香港の重要性が低下すれば、諸外国が香港の自由と民主主義を応援し続ける動機も減る。

中国政府が望むのは、香港を政治的には中国共産党の指導下に置きつつ、経済的には今までどおりの繁栄を維持すること。今の状況を座視していれば、反体制派はますます増長するだろう。それに「新冷戦」下の米中関係においては、民主化運動の高まりはアメリカに新たな武器を与えることになりかねない。

一方でトランプは、もはや香港は中国と一体だと述べ、香港に認めてきた貿易上の優遇措置を停止する可能性もほのめかしている。ただし例によって具体的な点には言及せず、停止に至る行程表も示していない。言うまでもないが、アメリカも軽率には動けない。中国に経済的な打撃を与えたいが、香港住民の暮らしも守らねばならないからだ。

アメリカが香港に対する貿易上の優遇措置を取り消せば、香港はやむなく中国本土に接近し、中国への依存を深めるかもしれない。そうなればアメリカ企業も困る。米商工会議所の香港支部が先に実施した調査では、回答を寄せた米企業180社の8割以上が国家安全法を「非常に」または「ある程度」懸念していた。しかし、現時点で香港を出る計画はないとの回答も7割に達した。

【参考記事】中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで浮上する第2の道とは

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中