最新記事

ルポ新宿歌舞伎町「夜の街」のリアル

【独占】押谷仁教授が語る、PCR検査の有用性とリスクとの向き合い方

SPEAKING OF RISKS AND TESTING

2020年7月31日(金)06時40分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

日本のクラスター対策を主導してきた押谷(7月6日、都内) HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

<日本のクラスター対策を主導してきた東北大学の押谷教授。7月6日、独占インタビューを行い、積極的なPCR検査の必要性や新宿区「夜の街」の状況について聞いた。本誌「ルポ新宿歌舞伎町『夜の街』のリアル」特集より>

積極的なPCR検査の必要性と現在の新宿区の状況を、厚生労働省クラスター対策班を率いてきた東北大学の押谷仁教授はどうみるか。ノンフィクションライターの石戸諭が押谷に聞いた(取材は7月6日、構成は本誌編集部)。

◇ ◇ ◇

──3月の段階で、押谷さんは日本はPCR検査数を抑えていると発言していた。その後は拡大したほうがいいと、方針を転換したかのように報じられていたが......。

20200804issue_cover200.jpg転換したというようなことは全くない。メディアがPCR推進派と抑制派という二項対立をつくったことが問題だ。尾身茂先生をはじめ、われわれ専門家会議は初めからずっと、PCRを拡充すべきと言っている。

日本はそもそも集団感染が起きたダイヤモンド・プリンセス号のPCR検査でも1日の処理能力が限られていた。いろいろな理由があって限られていたのだが、拡充しないといけないと最初から言っていた。だが、PCRは一気に増やすのではなく慎重に拡充しないといけない。アメリカでは多くのPCRキットを十分に精査せずに承認したことで、PCRが混乱の極みになってしまった。

──それらのキットの精度の問題か。

まずPCRを急速に拡充すれば、必ずクオリティーが低下する。クオリティーを担保できないままやると、偽陽性、偽陰性が多く出る可能性がある。民間や大学の研究室でもできるのでは、という話もあるが、患者に対してやるのと研究室にPCRの機械があるのとは全く別問題だ。日本では、本来は患者の検体を扱えるのは臨床検査技師など国家資格を持った人だけだ。重要なのはいかに精度の高い検査をできるかということ。

当初から臨床の先生たちと、2009年の新型インフルエンザのときの発熱外来の状況をつくってはいけない、と言っていた。みんな心配だからと検査センターに集まってくると、そこで3密状態になる。だが、「心配だから」と来る人の大半は感染していないわけだ。今の東京も市中の感染リスクは非常に低い。感染リスクがあるのは、一部の盛り場や医療機関だ。感染リスクの低い人たちを含め多くの人が医療機関や検査センターに殺到することは絶対に避けなければいけない。また当初は陽性の人たちは軽症であっても法律上、限られた病床で隔離する必要があった。すると、入院調整をする保健所と医療現場に一気に負荷がかかる。

さらに、これはあまり一般に理解されていないが、偽陽性であれば彼らの基本的人権が不必要に侵害されることになる。今だと盛り場での感染を疑われるなど、いろいろなレッテルを貼られることにもつながりかねない。その上、本来は感染していないのに感染リスクのあるエリアに入院させられるという問題がある。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

アングル:需要高まる「排出量ゼロ配送」、新興企業は

ビジネス

アングル:避妊具メーカー、インドに照準 使用率低い

ビジネス

UAW、GMとステランティスでスト拡大 フォードと

ワールド

ゼレンスキー氏、カナダの支援に謝意 「ロシアに敗北

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:グローバルサウス入門

特集:グローバルサウス入門

2023年9月19日/2023年9月26日号(9/12発売)

経済成長と人口増を背景に力を増す新勢力の正体を国際政治学者イアン・ブレマーが読む

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 2

    J.クルーのサイトをダウンさせた...「メーガン妃ファッション」の影響力はいまだ健在

  • 3

    アメックスが個人・ビジネス向けプラチナ・カードをリニューアル...今の時代にこそ求められるサービスを拡充

  • 4

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」…

  • 5

    毒を盛られたとの憶測も...プーチンの「忠実なしもべ…

  • 6

    ロシアに裏切られたもう一つの旧ソ連国アルメニア、…

  • 7

    ワグネルに代わるロシア「主力部隊」の無秩序すぎる…

  • 8

    米モデル、ほぼ全裸に「鉄の触手」のみの過激露出...…

  • 9

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に…

  • 10

    血糖値が急上昇する食事が「血管と全身の老化」をもた…

  • 1

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務所の「失敗の本質」

  • 2

    突風でキャサリン妃のスカートが...あわや大惨事を防いだのは「頼れる叔母」ソフィー妃

  • 3

    米モデル、ほぼ全裸に「鉄の触手」のみの過激露出...スキンヘッドにファン驚愕

  • 4

    インドネシアを走る「都営地下鉄三田線」...市民の足…

  • 5

    「死を待つのみ」「一体なぜ?」 上顎が完全に失われ…

  • 6

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 7

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に…

  • 8

    「特急オホーツク」「寝台特急北斗星」がタイを走る.…

  • 9

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」…

  • 10

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 1

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」が、家族に送っていた「最後」のメールと写真

  • 2

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 3

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 4

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部…

  • 5

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 6

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 7

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 8

    バストトップもあらわ...米歌手、ほぼ全裸な極小下着…

  • 9

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 10

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中