最新記事

トランプ

WHOに絶縁状、トランプの短気が招く「世界公衆衛生危機」の悪夢

2020年6月1日(月)19時05分
ロビー・グレイマー、コラム・リンチ、ジャック・デッチ

アメリカを苦しめるコロナ禍の責任をWHOに押し付けたい? JONATHAN ERNST-REUTERS

<「WHOとの関係を終了する」というトランプの突然の発表に、公衆衛生の専門家や民主党議員から苦言が相次いでいる>

5月18日、トランプ大統領はWHO(世界保健機関)に最後通牒を突き付けた。「30日以内に大幅な改革に取り組まなければ、アメリカの資金拠出を恒久的に停止する」

トランプは、自身が設定した期限を待てなかったようだ。11日後の29日、記者会見で突然こう表明した──「アメリカはWHOとの関係を終了させる」。WHOへの資金拠出も停止すると述べた。

この数カ月、アメリカと中国の関係悪化を背景に、アメリカはWHOへの不満を強めていた。米政府高官と議会共和党は、新型コロナウイルス問題でのWHOの対応が中国寄り過ぎると批判してきた。29日の記者会見は、香港情勢をめぐり米中の緊張がいっそう高まるなかで行われた。

しかし、トランプの発表に対しては、直ちに公衆衛生専門家から批判の声が上がっている。そんなことをすれば、新型コロナウイルスの感染が途上国に拡大し始めているなかで、WHOの対処能力を弱めてしまうというのだ。

「世界が公衆衛生危機の真っただ中にあるときに、これほど非生産的な行動はない」と、オバマ前政権で国家安全保障会議(NSC)の北アフリカ担当部長を務めたメーガン・ドハティは述べている。

新型コロナウイルス対策だけでなく、他の公衆衛生プログラムにも悪影響が及ぶことを恐れる声もある。「世界中の予防接種プログラム、ポリオ撲滅への取り組み、エボラ出血熱への対応などに壊滅的な打撃を与えるだろう」と、貧困問題を研究するシンクタンク「世界開発センター(CGD)」のジェレミー・コニンディク上級研究員は言う。

中国の影響力が強まる

野党の民主党も批判を強めている。トランプは米国内での新型コロナウイルス対応の不手際を隠すために、WHOに批判の矛先を向けているというのだ。アメリカにおける新型コロナウイルスによる死者数は10万人を突破した。

「このような措置は、WHOに対する中国の影響力をますます強めるだけだ」と指摘するのは、クリストファー・マーフィー民主党上院議員だ。「世界の公衆衛生のルールを決めるのは、アメリカではなく中国になる。悪夢と言うほかない」

もっとも、アメリカがWHOへの資金拠出を完全に停止した場合、中国が最大の資金拠出者になるというのは誤解だ。WHOへの任意拠出金に占めるアメリカの割合は15%。中国は0.21%にすぎない。アメリカに代わって最大の拠出者になるのは、マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツとメリンダ夫人が設立した慈善団体「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

過度な変動への対応、介入原資が制約とは認識してない

ビジネス

米新興EVリビアン第1四半期は赤字拡大、設備改修コ

ビジネス

アングル:米企業のM&A資金、想定利下げ幅縮小で株

ビジネス

円安にはプラスとマイナス、今は物価高騰への対応重要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中