最新記事

人種問題

日露戦争を終わらせたルーズベルト像も人種差別的で撤去

Teddy Roosevelt's Great-Grandson Supports Removing Statue From NYC Museum

2020年6月23日(火)15時40分
ジェニ・フィンク

馬に乗ったルーズベルトが先住民と黒人を従えている Mike Segar-REUTERS

<世界中に広がった黒人差別反対デモで南部連合の軍人や奴隷商人の銅像が引き倒される事件が相次いでいるが、セオドア・ルーズベルト元大統領はいったい何をしたのか>

映画『ナイト・ミュージアム』の舞台となった米自然史博物館は6月21日、正面に設置されているセオドア・ルーズベルト元大統領の像の撤去を(像の所有者である)ニューヨーク市に要請したことを明らかにした。元大統領のひ孫であるセオドア・ルーズベルト4世は、この像は元大統領の功績を適切な形で表したものではないとして、博物館の判断に支持を表明している。

22日にはニューヨークのビル・デブラシオ市長がこの要請を認めると表明。博物館は撤去の理由について、馬に乗った元大統領がアメリカ先住民とアフリカ系の人物を従えているこの像を「人種差別的」と受け止める人が多いからだと説明している。

元大統領のひ孫も同意した。「私たちが称えたい人物の価値観も、平等や正義を尊ばない像や過去の遺物は必要ない」と彼は述べた。「像を別の場所に移し、前進するべき時だ」

像は元ニューヨーク州知事でもあったルーズベルトの死後、記念碑として1925年に制作が依頼され、1940年に公開された。自然史博物館の説明によれば、「自然保護活動家で自然史に関する数々の著作を残した」元大統領を称える目的で建設されたものだ。

ヨーロッパ人の子孫の場所

米内務省によれば、ルーズベルトは大統領在任中に150の国有林、51の鳥類保護区、4つの禁猟区、5つの国立公園と18の国定記念物を指定した。フロリダ州のペリカン島を国立鳥類保護区に指定した彼の決定は、その後の保護区の拡大、さらには野生生物保護区制度の創設につながった。

アメリカ史上最も若い大統領でもあった彼は、パナマ運河の建設を実現させ、また日露戦争の調停役を務めてノーベル平和賞を受賞した。また著名な黒人指導者のブッカー・T・ワシントンをアフリカ系アメリカ人として初めてホワイトハウスに食事に招いているが、一方で、白人はほかの人種よりも優れていると考え、アフリカ系アメリカ人の権利向上のために十分な取り組みを行わなかったと批判もされている。

英ケンブリッジ大学のゲアリー・ガーストル教授(アメリカ史)はボストンの公共ラジオWBURに出演し、ルーズベルトは、アメリカは全ての人がチャンスを得られる場所だと考えていたが、同時に「人種的に優れている」ヨーロッパ人の子孫のための場所だとも考えていたと指摘。こうした人種差別的な考え方が彼を「時の人」にしたのだが、それも当時の人々の偏見という文脈の中で考える必要がある、とガーストルは言う。

「(ルーズベルトの人種差別的な考え方ばかりに注目して)彼が実行した改革が忘れられることがあってはならない。彼の改革計画は、20世紀の政治のかなりの部分を決定づけた」とガーストルは主張。ルーズベルトが提唱した考え方の例として、富の公平な分配や政府による経済の監督強化などを挙げた。

<参考記事>自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ
<参考記事>「アフリカ系アメリカ人」「黒人」、どちらが正しい呼び方?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長

ビジネス

メルセデス、2027年に米アラバマ工場で新車生産開

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中