最新記事

アメリカ社会

「他国に厳しく自国に甘い」人権軽視大国アメリカよ、今こそ変わるとき

America the Unexceptional

2020年6月16日(火)18時30分
デービッド・ケイ(カリフォルニア大学アーバイン校法学部教授)

多くの民主国家には既に人権機関が設置されているが、権限や実績、独立性の程度はさまざまだ。フランスでは最近、独立機関である全国人権諮問委員会がヘイトスピーチ関連法案について、検閲につながる恐れがあるとして批判したが、議会は可決に踏み切った。あるいはメキシコなどのように、人権侵害に関する訴えを個々に審査・判断する機関も多いはずだ。

第2に米議会は、国際条約を批准したなら、それに対応する国内法の制定を推進すべきだ。特に履行すべきなのは「人種差別撤廃条約」と「市民的および政治的権利に関する国際規約」だ(「拷問等禁止条約」には既に着手している)。これによって国内の裁判所は、条約を基にした訴えを審議できるようになる。市民は警察に権利を侵害されても、国際法に基づいて救済手段を求める権利を手にする。

第3にアメリカは、これまで拒否してきた条約の批准を全て実行すべきだ。特に女性差別に対する権利や、子供、移民、障害者の権利に関する国際条約だ。これらの大半は国内法にも沿っている。批准していないのは怠慢でしかない。

第4に、アメリカ人は市民権と政治的権利については冗舌に語るが、労働や賃金、医療、教育の基本的権利について国内外で共通するビジョンには言葉を濁す。アメリカは「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」も批准し、腐敗や富の集中、国内外の既得権層がもたらす不公平や貧困、非人道的な対応を防ぐ政策を打ち出すべきだ。

最後に、アメリカは人権問題に関与することで初めて、人権に関して本当に世界的な発言権を得られるようになる。ドナルド・トランプ大統領は稚拙な考えによって、国連人権理事会から離脱した。人権について独自の社会基盤を構築するなら人権理事会に復帰し、世界中の人々の人権を擁護する建設的な役割を果たすべきだ。根深い権威主義や、中国などが推進する反人権思想に抗議の声を上げるべきだ。

「ブラック・ライブズ・マター」を叫ぶデモ参加者は、アメリカが「丘の上の光り輝く町」に生まれ変わる必要性と可能性を示している。それは政府が市民のために働く国であり、法に反して人の命を踏みにじった者には相応の責任を負わせる国であり、人種差別を根絶して平等を促進する国だ。そのためには、アメリカの人権政策に内在していた差別的要素を取り除くことに取り組むべきだろう。

これらを実現するには法と政策を変えなくてはならない。その動きは、人権が支え、維持してくれる。

(筆者は国連人権理事会から任命された「表現の自由」に関する特別報告者)

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年6月23日号掲載>

【参考記事】トランプ、突き飛ばされた白人男性は「アンティファの一味」警官は「はめられた」と陰謀論を主張
【参考記事】自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ

20200623issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月23日号(6月16日発売)は「コロナ時代の個人情報」特集。各国で採用が進む「スマホで接触追跡・感染監視」システムの是非。第2波を防ぐため、プライバシーは諦めるべきなのか。コロナ危機はまだ終わっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中