最新記事

米中新冷戦2020

限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない

‘THE ERA OF HOPE IS OVER’

2020年6月15日(月)06時55分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

ILLUSTRATION BY RYAN OLBRYSH

<貿易戦争はギリギリで回避したかにみえたが、パンデミックで米中対立は危険な局面へ。「中国もいずれ『普通の国』になると希望を抱く時代は終わった」。軍事面、経済面......米ソ冷戦との違いは何か。デカップリング以外の施策はあるか。本誌「米中新冷戦2020」特集より>

いずれ中国もわれわれの仲間になる──。この漠然とした思い込みは、過去40年間、アメリカの対中政策の根幹を成してきた。だが今、その「言い出しっぺ」の1人が、とうに自明になっていた事実を認めつつある。

20200616issue_cover200.jpgロバート・ゼーリック米国務副長官(当時)が、中国に「責任あるステークホルダー」になることを求めたのは2005年のこと。WTO(世界貿易機関)加盟から4年がたち、一段と好調な経済成長を遂げる中国に、政治や安全保障も含めたアメリカ主導の国際システムの一員になることを期待したのだ。

中国は、この期待に一部応えた。ゼーリックは昨年12月のスピーチで、中国が北朝鮮の核開発をめぐる国連制裁に協力したことや、核実験の全面禁止に応じたことを挙げた。だが、その上で、中国が「われわれの仲間」にはならなかったことを認めた。「習近平(シー・チンピン)指導部は、共産党を最優先し、国内の開放性や言論の自由を制限してきた。国民のプライバシーに踏み込む技術や再教育キャンプから成るディストピア的な社会のモデルをつくり上げ、自らを傷つけている」

その上で、ゼーリックは警告した。「香港の『一国二制度』を支える法の支配と開放性は、踏みにじられる恐れがある」

そして今、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)をきっかけとして、米中関係は1979年の国交正常化以来、最悪となっている。

そもそもドナルド・トランプ米大統領の就任以降、両国は対立色を強めていた。そして今、11月の次期大統領選で再選を狙うトランプは、パンデミックから経済不振に至る全ての問題で、中国を悪者にするのに必死だ。両国が対立を棚上げし、新型コロナと戦うために手を組むのではという淡い期待は、見事に打ち砕かれた。

FBIは5月13日、中国のハッカーがアメリカの研究機関や製薬会社のシステムに侵入して、新型コロナの治療薬やワクチンの開発情報を盗もうとしていると警告。これに先立つ5月7日には、トランプ自身が厳しい批判の声を上げた。

「われわれは米史上最悪の攻撃を受けている」と、トランプは記者団に語った。「真珠湾攻撃よりもひどい。世界貿易センター(米同時多発テロ)よりもひどい。こんなことは発生源である中国で食い止められたはずなのに、そうはならなかった」

この発言には、対中強硬派の外交顧問たちも仰天した。トランプが歴史に例を探したことは理解できる。ただし新型コロナ危機は、真珠湾攻撃や米同時多発テロのように醜い戦争(太平洋戦争とアフガニスタン戦争)を引き起こすのではなく、新しい国際秩序の形成を決定付けるという意味で、1961年のベルリンの壁建設に近い。そしてその流れは、ホワイトハウスの主が誰になろうと変わらない可能性が高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 2

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子供を「蹴った」年配女性の動画が大炎上 「信じ難いほど傲慢」

  • 3

    あまりの激しさで上半身があらわになる女性も...スーパーで買い物客7人が「大乱闘」を繰り広げる動画が話題に

  • 4

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 5

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 5

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 9

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中