最新記事

中国

香港を殺す習近平、アメリカと同盟国はレッドラインを定めよ

Xi Jinping’s Dangerous Game

2020年6月1日(月)19時00分
ダグ・バンドー(ケイトー研究所上級研究員)

アメリカ議会が理性的に行動する見込みもない。「弾圧を糾弾する」決議案や、国家安全法の施行に関与する中国側当局者と関連企業への制裁が提案された程度だ。

実効性のある経済制裁も望めない。たとえアメリカが中国に経済戦争を仕掛けても、中国は一歩も引かず、その政治目標に向かって突き進むだろう。ベネズエラでもイランでも北朝鮮でも、トランプ政権による「最大限の圧力」は失敗の連続だ。

一方で経済制裁の強化はアメリカ企業に深刻な影響をもたらす。新型コロナウイルスの感染拡大で止まった経済活動の再開を急がねばならない時期に、それは避けたい。

それに、再選を期すトランプとしては一刻も早く中国との貿易協定をまとめ、自らの貿易戦争が招いた経済的損失を帳消しにしたいところだ。新疆で膨大な数のウイグル人が「再教育」キャンプに送り込まれても中国を非難しなかった政権であり、議会である。同じ中国領の香港での中国政府の横暴を止める姿は想像し難い。

アメリカ側に打てる手があるとすれば、香港に対する貿易上の優遇措置を定めた「香港人権・民主主義法」だ。この特別待遇は、香港に一定の自治が存在することを前提としている。自治がなくなれば、香港も中国本土と同様、高率関税などの対象となる。現にマイク・ポンペオ国務長官は5月27日にこの法律を持ち出して、今の香港で「高度な自治が維持されているとは言えない」と警告している(編集部注:トランプは30日、優遇措置を停止し、中国当局者に制裁を科す方針を発表した)。

しかし優遇措置を取り消した場合に最も困るのは、中国政府ではなく香港の人たちだろう。アメリカ政府は日頃から、そういう現地の事情を無視しがちだ。しかし今回に限って言えば、まず香港市民と香港にいる多国籍企業に及ぼす甚大な影響を熟慮してから動くべきだった。

そもそも中国政府は、ポンペオの警告など軽く受け流すだろう。この20年で中国経済は劇的な急成長を遂げ、香港への経済的な依存を大幅に減らしている。1997年には香港が中国全体のGDPの20%弱を占めていたが、今は約3%だ。もちろん無視できる存在ではないが、中国政府がその政治的な意思を貫徹するためなら、香港の経済力低下もやむなしと判断するだろう。

そうは言っても、国際的な金融センターとしての香港の役割は依然として重要だ。国際NGOのホンコン・ウォッチも、「アジア太平洋地域における傑出した金融サービスの中心地として、香港は今なお中国政府にとっても世界にとっても重要な役割を果たしている」とみる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏のイラン合意状況整備に期待、軍事行動回避

ワールド

ロシア、米との経済協力分野選定 ウクライナ戦争後見

ワールド

NATO国防相会議、米長官は欠席 事務総長は防衛投

ワールド

トランプ関税、「ほぼ全額」を米国民が負担 NY連銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の定説に挑む、3人の日本人科学者と外科医
  • 3
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベルの「若見え」な女性の写真にSNS震撼
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    エプスタイン疑惑の深層に横たわる2つの問題
  • 10
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中