最新記事

中国

香港を殺す習近平、アメリカと同盟国はレッドラインを定めよ

Xi Jinping’s Dangerous Game

2020年6月1日(月)19時00分
ダグ・バンドー(ケイトー研究所上級研究員)

その一方、新型コロナウイルスのせいで大規模な街頭行動がしにくくなった状況を、香港警察が見逃さなかった。4月下旬には民主派の有力な指導者15人を逮捕。その中には「香港民主主義の父」と呼ばれる81歳の弁護士・李柱銘(リー・チューミン)や民主派の新聞「蘋果日報」(アップル・デイリー)の発行人・黎智英(リー・チーイン)もいた。

この15人の容疑は、昨年の夏に若者たちの大規模な抗議行動が起きたとき「違法な集会」を組織したというもの。中国外務省も彼らに「香港における問題分子」というレッテルを貼った。彼らは長期にわたり収監される可能性が高い。当然、民主派の市民は大挙して街頭に繰り出して抗議したが、重武装の警官隊に蹴散らされた。

それでも今までなら、これほどの弾圧に対してはもっと大規模な抗議行動が起きたはずだ。習政権としては、ウイルス感染の恐れがあれば抗議行動は盛り上がらないと踏んでいるのかもしれない。

制裁で困るのは香港人

なにしろ習にとって、新型コロナウイルスの蔓延は想定外だったようで、初期対応の遅さは一般の国民からも批判された。だからこそ、ここで強い指導者のイメージを打ち出したいという思惑もあるようだ。なりふり構わず、ここで香港を締め付ければ国内の保守派は喜ぶ。批判派に対しても、いかなる抵抗も許さない姿勢を改めて伝えることができる。

香港に約束した高度の自治を守れと諸外国から迫られても、習政権はずっと無視してきた。新華社通信によれば、今回も外務省の趙立堅(チャオ・リーチエン)副報道局長は「(香港問題は)純粋に中国の内政問題」であり「いかなる外国も干渉する権利はない」と述べている。

諸外国にできることは限られている。香港に対する主権は23年前から中国にあるので手を出せないし、中国の領土に軍隊を出すという選択肢もあり得ない。

ドナルド・トランプ米大統領も介入には及び腰だ。国家安全法についても、「実際にそうなったら極めて強い取り組みをする」と述べるにとどめている。

そもそもトランプ政権は、人権問題を敵対国家との駆け引きに使える戦術的なものと位置付けている。そしてロシアやサウジアラビア、トルコ、エジプトなどの強権的な政権の肩を持つ。

その一方、今秋の大統領選で激突するはずの民主党候補ジョー・バイデン前副大統領に対しては「中国に甘い」と攻撃している。大統領だけでなく、政府高官の頭にも選挙のことしかない。諸外国の首脳も、今のトランプ政権は11月の選挙に勝つことしか考えていないと割り切っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ769ドル安、中東緊迫化で信頼感

ワールド

アングル:非常口付近が安全か、座席位置に関心高まる

ワールド

イラン、イスラエルに報復攻撃 数百発のミサイル発射

ワールド

イラン攻撃「米国に事前に通知」、ネタニヤフ首相が表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中