最新記事

人種差別

木に吊るされた黒人男性の遺体、4件目──苦しい自殺説

Four Black Men Found Hanged in LAST Month

2020年6月18日(木)18時05分
ハレダ・ラーマン

フラーの死について公正な捜査を求めるデモ隊 Ringo Chiu-REUTERS

<FBIと連邦機関が調査に乗り出した矢先、4人目の遺体が発見された>

人種差別に抗議するデモが広がるアメリカで、黒人男性の遺体が木から吊り下げられた状態で発見される事件が相次いでいる。5月31日以降、少なくとも4人の遺体が発見され、捜査当局はいずれも自殺との見方を示したが、拙速な判断に怒りの声が上がっている。

6月16日、テキサス州ヒューストンの北に位置するスプリングで、10代と見られる身元不明の黒人男性の遺体が小学校の駐車場で吊り下げられた状態で発見されたと、同州ハリス郡保安官事務所が発表した。同様の遺体が発見されたのは5月末以降、これで4件目だ。

折しもアメリカでは、コロナ禍のさなかにもかかわらず、5月25日にミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドが白人警官に首を押さえ付けられて死亡した事件をきっかけに、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事)」運動が大きなうねりとなって広がっている。

この国にはかつて南部を中心に、黒人を木に吊るして集団リンチで殺す凄惨なテロがはびこった歴史がある。最近起きた4件の事件も、抗議デモの広がりにいらだつ過激な人種差別主義者の嫌がらせではないかとの見方もある。

そうした見方を打ち消すかのように、4件とも捜査当局は早々に自殺との判断を示した。

「監視カメラの映像や目撃者の証言などから、今の段階では、男性は首吊り自殺をしたと見られる」と、ハリス郡保安官事務所は16日に発見された遺体についてツイッターで発表した。「事件性を疑わせるような形跡は今のところ全く見つかっていない」

「自殺」の発表に市民は納得せず

保安官事務所のエド・ゴンザレスは、本誌の問い合わせに対し、この件に関してはそれ以上提供できる情報はないと述べた。

同じ日にはまた、先に遺体で発見された27歳の黒人男性ドミニク・アレクサンダーの死を自殺と判定した検視結果も発表された。地元メディアによると、アレクサンダーは6月9日、ニューヨーク市マンハッタン北部のフォート・トライオン公園内で木に吊り下げられた状態で亡くなっていた。通行人が発見し、警察に通報した。

本誌が監察医事務所に確認したところ、アレクサンダーの死は自殺と判定されたと、アジャ・ワーシーデービス報道官が答えた。だが地元メディアによると、多くの市民はこの判定に納得しておらず、この週末にフォート・トライオン公園で徹底的な捜査を求めるデモが行われる予定だ。

本誌の取材に対し、ニューヨーク市警の報道官は、監察医事務所の判定にかかわらず、アレクサンダーの死については引き続き捜査を行うと語った。

これに先立ち、カリフォルニア州でも同様の事件が2件報告されている。

6月10日早朝、ロサンゼルス郡パームデールの市庁舎近くの公園で、24歳の黒人男性ロバート・フラーの遺体が見つかった。この件についても、ロサンゼルス郡保安官事務所は即座に自殺との見方を示したと、メディアが伝えている。

<参考記事>自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ
<参考記事>黒人男性の遺体が吊るされて発見された事件でFBIが再調査、一方で3人目の遺体も発見 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ首相、カンボジアとの戦闘継続を表明

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中