最新記事

ブラジル

新型コロナよりはるかに厄介なブラジル大統領

Brazil’s Perfect Storm

2020年5月21日(木)11時40分
デービッド・ブレナン

magw200520_Brazil2.jpg

医療機関の病床が足りないためスポーツジムを仮設病院に AMANDA PEROBELLI-REUTERS

連邦議会は3月末、非正規雇用者や自営業者を対象に、緊急援助金として月600(約1万1000円)を支給する法案を可決。4月9日から給付が始まっているが、計画の実施には遅れや混乱が生じている。

シルバによれば、援助金を受け取るには銀行口座や、サイトやアプリでの申し込みが必要なため、マレ地区の住民で受け取れる人はほとんどいない。運よく受給できたとしても、「この金額では焼け石に水」だと、彼女は言う。

光が見えない支援活動

ファベーラでは医療システムが崩壊している。シルバによれば、マレ地区には医療センターが7カ所と中規模の病院が1カ所あるが、どれもコロナ禍の前から限界に達していた。彼女に言わせれば、医療システムは「完全な混乱状態」にあり、新型コロナウイルス感染症以外の病気の治療は中止されている。

特に危険にさらされているのが、ホームレスや薬物依存の問題を抱えている人々だ。マリア・アンジェリカ・コミスは、サンパウロでホームレスや薬物依存者を支援する団体エ・ジ・レイのコーディネーター。コロナ禍が始まってから組織の役割を転換し、健康指導プログラムを実施したり、医療用品や飲料水の配給などに取り組んでいる。

だが、活動には光が見えない。「状況は実に急速に悪化した」と、コミスは言う。支援は企業などからの食料の寄付に頼っているため、コロナ禍の影響でビジネスが停滞すれば、寄付が打ち切られて食料は底を突く。

さらにコミスは、事態を悪化させているのは連邦政府だと主張する。「ブラジルが新型コロナウイルスのせいで危機にあることを、政府は組織ぐるみで否定しようとしている」。サンパウロ市当局はホームレスへのサービスを何とか継続し、食料を提供しようとしているが、とても十分とは言えない。

「警察関係者の暴力も問題」と、コミスは言う。ホームレスの人々が警官から嫌がらせを受けたり、ゴム弾や催涙ガスで攻撃されるなどしている。

新型コロナウイルスの検査や医療を受ける機会がほとんどないなかで、ホームレスの人々は通りで死にかけている。彼らにも医療機関を受診する権利はあるが、「病院に行っても偏見や差別にさらされることが分かっているため、行かない人が多い」と、コミスは言う。

ギャング団が感染防止策

本誌が取材する前の10日間に少なくとも20人のホームレスが亡くなったと、コミスは語る。もちろん把握できている数字は全体像のほんの一部であり、多くの死者は記録にも残らない。大惨事の本当の規模を測ることは困難だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IMF、日本の財政措置を評価 財政赤字への影響は限

ワールド

プーチン氏が元スパイ暗殺作戦承認、英の調査委が結論

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ

ビジネス

米製造業新規受注、9月は前月比0.2%増 関税影響
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中