最新記事

スウェーデン

「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に

Sweden's Coronavirus Death Rate Nearly Double That of U.S

2020年5月1日(金)16時25分
スー・キム

公衆衛生局の当局者によれば臨時病院も含む医療態勢には「まだ余力がある」Jonas Ekstromer/REUTERS

<より多くの人をウイルスにさらすことで集団免疫を獲得する、というスウェーデンだけの「人体実験」には国内から反対も出始めている>

ロックダウンに頼らない独特の新型コロナウイルス対策で知られるスウェーデンで、感染者が増え続けている。しかも米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によれば、死亡率は4月30日時点で12%超。これは、感染者が1000人を超える国の中で6番目に高い割合で、現在の感染拡大の中心地で死者数も最多のアメリカ(約5.8%)、ウイルスの発生源とされる武漢市がある中国(約5.5%)と比べても2倍以上の高さだ。

新型コロナウイルスの感染拡大を抑える対策としては、北欧諸国も含むヨーロッパの多くの国が全国的な封鎖措置を取り、厳しい移動規制を敷いている。こうしたなか、スウェーデンは全国的な移動規制や外出制限をしないという独自路線を貫いており、ストックホルムの通りの人でもカフェの客入りも一見、普段通りだ。その「緩い」対策は、世界的にも論議を呼んできた。

ドナルド・トランプ米大統領は4月30日朝、公式アカウントにツイートを投稿。この中で「封鎖措置を取らなかったスウェーデンは、その決定の手痛い代償を払っている」と指摘。「同国では30日の時点で、死者数が2462人にのぼっている。近隣のノルウェー(207人)、フィンランド(206人)やデンマーク(443人)よりもずっと多い。アメリカは正しい決断を下したのだ!」と主張した。

「集団免疫」戦略の効果は

スウェーデンはこれまでに2万1000人近くが新型コロナウイルスに感染したと報告しており、このうち2500人近くが死亡している。感染者の死亡率はノルウェー(約2.6%)の6倍近く、同じ北欧のフィンランド(約4.2%)やデンマーク(約4.9%)と比べても3倍近くにのぼる。かつて中国以外で最も高かったイランの感染者死亡率(約6.3%)も、スウェーデンの半分ぐらいだ。感染者数を見ても、スウェーデンの感染者数はデンマークの2倍以上、ノルウェーの3倍近くで、フィンランドの4倍以上に達している。

感染者の回復状況も思わしくなさそうだ。スウェーデンは4月に何度か感染者の回復を報告しており、最も多かった25日には一気に455人が回復したと発表しているが、それ以外の報告はない。その一方で、感染拡大が始まった3月上旬から、新たな新規の感染者の数は増え続けており、同国の公衆衛生当局によれば4月29日には新たに681人の感染が確認された。

新型コロナウイルスの感染拡大に対するスウェーデン独自の対策は、ウイルスにさらされる人の数を増やすことで「集団免疫」を形成し、感染拡大の第2波を防ぐという作戦の一環だとされている。

スウェーデン公衆衛生局の疫学者であるアンダース・テグネルは4月下旬にBBCラジオの番組に出演し、「我が国の死者のうち少なくとも半数は、高齢者施設の中で集団感染した人々だ。封鎖をすれば感染拡大を阻止できる、という考え方は理解しがたい」と主張。スウェーデンの方法は「ある意味で功を奏している。私たちの医療システムが崩壊に追い込まれていないことがその証拠だ」と述べた。

<参考記事>新型コロナで都市封鎖しないスウェーデンに、感染爆発の警告
<参考記事>「ストックホルムは5月には集団免疫を獲得できる」スウェーデンの専門家の見解

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国当局、空売りの抑制強化へ 大株主の違法売却に厳

ビジネス

中国5月指標は強弱交錯、弱い鉱工業生産 好調な小売

ワールド

スウェーデンとイラン、オマーンの仲介で受刑・拘束者

ビジネス

中国新築住宅価格、5月は前月比-0.7% 約9年半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 3

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 4

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドン…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 7

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 8

    中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理…

  • 9

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 10

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 7

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中