最新記事

感染症

ウイルス流出は野生動物に対する人類の行動の必然的結果

2020年4月10日(金)18時00分
松岡由希子

中国雲南省の動物マーケットから救助されたサル REUTERS/China Daily

<人類が自然環境や生物多様性にもたらす影響によって、人獣共通感染症の伝播が促されていることが明らかに>

人獣共通感染症とは、動物からヒトへ、ヒトから動物へと伝播でき、同一の病原体によってヒトとヒト以外の脊椎動物の双方が罹患する感染症である。すべての感染症のうち約半数を占め、狂犬病や重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザなど、その多くが動物由来だ。

このほど、人類が自然環境や生物多様性にもたらす影響によって、人獣共通感染症の伝播が促されていることが明らかとなった。

ウイルス流出のリスクは必然的に高まる

米カリフォルニア大学デービス校と豪メルボルン大学の共同研究チームは、2020年4月8日、学術雑誌「英国王立協会紀要」において「狩猟や売買、生息環境の悪化など、人類による野生動物の搾取により、ウイルスに感染した野生動物とヒトとの密接な接触が促され、ウイルス流出のリスクが高まる」との研究論文を発表した。

人間社会が自然界に侵入することで、野生動物との接触が増えれば、ウイルス流出のリスクは必然的に高まるというわけだ。

研究チームは、動物由来感染症を引き起こす既知の142種類のウイルスとその宿主とみられる動物のデータを分析。国際自然保護連合(IUCN)絶滅危惧種レッドリストを用いて3つのパターンに整理した。

これによると、家畜は、野生の哺乳類に比べて、動物由来感染症を引き起こすウイルスを8倍多くヒトと共有していることがわかった。ヒトと共有するウイルスの数が多い上位10種の哺乳類には、家畜であるブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、犬、ヤギ、ネコ、ラクダが含まれている。

個体数が豊富に増え、人類が支配する環境によく適応した野生動物も、より多くのウイルスをヒトと共有している。住居や農地の周辺に生息するリスやハツカネズミなどの齧歯類やコウモリ、そして霊長類は、ヒトへウイルスを継続的に感染させるリスクが高い。

また、絶滅危惧種の中でも、狩猟や売買、生息環境の悪化によって個体数が減少している種は同様のリスクが高い。これらの要因以外で個体数が減少している種に比べて、動物由来感染症を引き起こすウイルスを2倍多く有しているとみられている。

ウイルス流出は野生動物に対する人類の行動の直接的な結果

研究論文の筆頭著者であるカリフォルニア大学デービス校のクリスティーン・ジョンソン教授は「動物からのウイルスの流出は、野生動物やその生息環境に対する人類の行動の直接的な結果だ。結局、動物たちが我々とウイルスの共有することになってしまった」と指摘。「我々は、野生動物との関わり方や人類と野生動物との共生について十分に注意する必要がある」と警鐘を鳴らしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ビジネス

NY外為市場=円・スイスフラン上げ幅縮小、イランが

ビジネス

米P&G、通期コア利益見通し上方修正 堅調な需要や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中