最新記事

「カニなどの生物が海洋ウイルスを除去する働きをもつ」との研究結果

2020年4月8日(水)19時15分
松岡由希子

海洋環境には無数のウイルスが存在する...... borchee-iStock

<海水1ミリリットル中に1000万ものウイルスが含まれることもある。そしてこのほど、海洋で生息する非宿主生物が、海中のウイルスを除去する働きを持っていることが明らかとなった>

海洋環境には無数のウイルスが存在する。米オハイオ州立大学の研究チームが2019年4月に発表した研究論文では19万5728種の海洋ウイルスが特定されているが、これらはほんの一部にすぎない。

海水1ミリリットル中に1000万ものウイルスが含まれることもある。そしてこのほど、海洋で生息する非宿主生物が、海中のウイルスを除去する働きを持っていることが明らかとなった。

ナミイソカイメンはウイルスを効果的に除去し続けた

オランダ海洋研究所(NIOZ)の研究チームは、カニや牡蠣、海綿動物など、海洋で生息する10種類の非宿主生物を対象にウイルスの除去効果を評価し、その結果を2020年3月23日、オープンアクセスジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ」で公開した。

研究チームは、植物プランクトン「ファエオキスティス・グロボサ」に感染する海洋ウイルス「PgV-07T」を用い、イソギンチャク、フジツボ、カニ、ザルガイ、ムール貝、牡蠣、ホヤ、ナミイソカイメン、カイアシ類の成体、多毛類の幼虫の10種類の非宿主生物においてウイルス量が減少するかどうか検査した。

その結果、フジツボ、ムール貝、カイアシ類以外の非宿主生物では「PgV-07T」のウイルス量に有意な変化が認められ、ウイルス感染から防御する働きがあることがわかった。なかでも、ナミイソカイメンは、3時間でウイルス量を94%軽減し、24時間で98%まで減少させた。同じく24時間でカニは90%、ザルガイは43%、牡蠣は12%、それぞれウイルス量を減少させている。

ウイルス量を大幅に減少させたナミイソカイメンを対象に、一定期間にわたってウイルス量を減少させ続ける働きがあるのかどうかも検証した。20分ごとに6時間にわたって「PgV-07T」を与えたところ、ナミイソカイメンはこのウイルスを効果的に除去し続けたという。

非宿主生物のウイルス除去作用は、これまで見落とされてきた

研究論文の筆頭著者であるオランダ海洋研究所のジェニファー・ウェルシュ客員研究員は、「実際の海洋環境は、実験室よりもずっと複雑で、これら10種類の非宿主生物にも様々な生物が生息し、相互作用している」としながらも「非宿主生物のウイルス除去作用は、これまでウイルス生態学において見落とされてきたのではないか」と指摘している。また、一連の研究成果は、水産養殖における感染症対策にも応用できるのではないかもと考えられている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

マスク氏のチャットボット、反ユダヤ主義的との苦情受

ワールド

ロイターネクスト:シンガポール、中国・米国・欧州と

ビジネス

日経平均は続伸、円安が支え 指数の方向感は乏しい

ビジネス

イオンが決算発表を31日に延期、イオンFSのベトナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中