最新記事

感染症対策

新型コロナウイルス院内感染で医療関係者24人が死亡 インドネシア、防護服など不足で危機的状況

2020年4月28日(火)18時36分
大塚智彦(PanAsiaNews)

感染症状を隠して来院する患者も

さらにもうひとつの原因として考えられるのは未発症の患者が自らの感染を気づかぬままに医療機関を訪れ、別の病気や症状を訴えて看護師や医師と面談し、治療や検査の結果初めて感染が判明するというケースがあるとしている。

さらになかには新型コロナウイルス感染の可能性がある症状が出ている、または海外の感染国への渡航歴があるにも関わらず、それを隠して医療機関を訪れる患者の存在も指摘する。

「新型コロナウイルスの感染が疑われる症状を正直に訴えると医療機関から受け入れを拒否されるのではないかと心配するあまりそれを言わずに診察を受け、その結果医師や看護師が感染してしまう」というのだ。

これらの新型コロナウイルスではないという一般患者を診察する場合には、看護師も医師もPPEを着用しないことから、医療関係者の感染の原因となっているというのだ。

こうした自覚症状があるにも関わらず患者が隠して来院する例は、ジャカルタ南部などで実例が報告されている。

医療関係者は「自分の症状を正直に医療関係者に伝えて医療機関を訪れるようにしてほしい。そうしないと患者と医療関係者の間の信頼が崩れ、その結果として医療関係者が犠牲となってしまう」と訴える事態となっている。

政府、感染者、医療関係者各々に訴え

IDIをはじめとしてインドネシアの現場で奮闘する医療関係者が声を揃えて訴えているのは、医療用の高品質なPPEやマスク、防護対策の十分で一刻も早い配分である。

さらに新型コロナウイルス感染患者だけを受け入れる病院・医療施設の拡充、医療関係者への手厚い配慮などである。インドネシアも全国に新型コロナウイルス感染患者専用の医療施設が指定されているが、すでにベッドが不足する事態となっているのが現状という。

加えて感染者側の問題として無自覚症状の感染者さらに自覚があるのにそれを隠す感染者の問題は「非常に危険である」として重ねて注意を喚起している。

そして最後に医師、看護師などの医療関係者に対してもファキ理事は「自分だけは健康で感染しないなどと思わないことだ。そう思うと感染への警戒が甘くなってしまう」と指摘し、最前線で活動する際の心得を再確認するよう求めている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

【関連記事】
・中国・武漢市、新型コロナウイルス入院患者がゼロに 全員退院
・優等生シンガポールの感染者数が「東南アジア最悪」に転じた理由
・アメリカで相次ぐ病院閉鎖、コロナ患者は儲からない
・1月から中国をサイバー攻撃し、コロナの情報収集をしていた国


20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

世界のLNG需要、今後10年で50%増加=豪ウッド

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時初の4万5000円 米ハ

ワールド

EU、気候変動対策の新目標で期限内合意見えず 暫定

ワールド

仏新首相、フィッチの格下げで険しさ増す政策運営 歳
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中