最新記事

中国

コロナ禍は人災

2020年3月9日(月)11時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

武漢市書記に新しく就任した王忠林等は3月6日、「武漢市民はみな『恩を感じる教育』を展開しなければならず、習近平総書記に感謝し、共産党に感謝し、党の言うことを聞き、党と共に歩み、強大なエネルギーを発揮していかなければならない」と述べた。

これに対して多くのネット民が激しい批判のコメント書き込んだので、一瞬で元の情報は削除された。しかし中国大陸以外の中文情報がそれを捕えているので、たとえばこちらから見ることができる。

安倍首相が初動の失態を埋めようと、ここのところ「この私が」主導力をアピールするための思いつき指示を次から次へと出しているが、両者とも同じ穴の狢と見えてくる。

同日、中国政府は1月と2月の輸出が前年同期の17.2%減であると発表したが、日本も「第二の武漢」同様、後を追うことになるのではないだろうか。

実体経済だけでなく金融においても

シンクタンク中国問題グローバル研究所の理事の一人である白井一成氏は、投資家でもあるため金融に関して詳しい。3月3日、特別寄稿として「新型コロナウイルスと経済の関係」を投稿してくれた。その中で彼は以下のように書いている。

――各国は、傷ついた企業に救急的な融資を実行するだろうが、これは、資金繰りを利益でなく借り入れで繋ぐということである。問題の先送りである。各企業は、売り上げが減少するなかで借入比率を高めることとなり、結果として金融危機への負のエネルギーを蓄積することになる。(中略) 実体経済が縮小するなか、高水準のレバレッジ比率が引き金となり、最終的にはリーマンショックのような大きな流動性危機が発生する可能性がある。

その上で筆者に「足元の経済状態から、世の中は、流動性危機(資金蒸発と金融機関破綻)が発生するシナリオに向かいはじめた可能性が高い」と忠告してきた。

白井氏はまた、以下のような見解も述べている。

――現時点において、各国中央銀行に状況を好転させるだけの手立てはあまり残っていない。各国政府の素早く大規模な財政出動が望まれるが、数カ国を除き、そのような賢明な判断がなされないのではないかと危惧している。予防的で大胆な政治判断は、強力なリーダーシップがないと難しいからだ。コロナウイルス拡大に伴う世界的景気減速の責任の一端は、日本政府を含めた初動を誤った複数の国家にあった。ウイルスが世界的に広まってしまった以上、世間の注目は感染の拡大防止から経済対策に移る。安倍政権には、リーダーシップを発揮し流動性危機の発生を食い止めてほしいと切に願う。

実に示唆的な見解だ。

第二の失敗を食い止めるためにも、この声が安倍政権および全ての国会議員に届くことを祈ってやまない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カーライル、ルクオイルのロシア国外資産の買収を検討

ワールド

米、中南米からの一部輸入品で関税撤廃 コーヒーなど

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米株急落の流れ引き継ぐ 

ワールド

米航空便、14日の減便は当局の要件6%を下回る 遅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中