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安倍晋三

今さら!水際、中国全土を対象──習近平国賓来日延期と抱き合わせ

2020年3月6日(金)16時25分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

しかし、習近平に忖度して初動の水際対策に失敗しながら、今もなお国賓招聘は諦めず、延期などと考えている時点で、安倍政権の感染対策は必ず失敗する。重んじているものが違うからだ。

その証拠に、習近平のご機嫌を損ねないように、中国側が日本を感染警戒国としてマークし、山東省威海市や江蘇省蘇州市だけでなく、北京市、上海市、あるいは広東省の広州市や深セン市などが軒並み日本からの渡航者を自宅または指定施設で隔離する方針を取り始めたのを見てから、やっと「これなら習近平に嫌がられないかな」とばかりに「中国全土」に対象を広げたという「遠慮ぶり」なのである。

「韓国も抱き合わせだから許してね」というシグナル

たしかに韓国の発生率は急増しているものの、ここまで習近平に忖度しながら、どうやら韓国には相談もせずに突如この度の水際対策を決定したらしい。

既に多くの日本のメディアで報道されているが、たとえば3月6日付けの読売新聞は<韓国、日本の入国制限に「防疫と違う意図があるのでは」...対抗措置を示唆>という見出しで韓国側の不満を伝えている。

入国規制を中国全土に広げるのに、韓国まで巻き添えにしないと「習近平に申し訳が立たない」と安倍首相は思っているらしい。

強い者には跪(ひざまず)き、弱い者には強く出るという安倍政権の特徴が如実に表れており、この精神は変わらないのだから、今後も同様の「日本国民の命や安全を軽視し、習近平への忖度を重んじる」決定は続くだろう。

中国の「シャープパワー戦争」に「敗戦した」安倍政権

私たち日本国民はあの民主党政権時代への激しい失望から、安倍晋三氏を頂点とする自民党(実際は自公)政権に期待し、安倍首相にエールを送ってきた。

しかしそれは安倍首相が習近平を国賓として招聘すると決断したその日から崩れ始めた。

いま日本を恐怖のどん底に追いやっているのは、安倍政権のこの決断がもたらした災禍なのである。それを根本的に反省しない限り日本の悪夢は続く。

3月5日付けのViewpoint「コロナ禍招いた中国共産党体制、習主席の国賓来日は論外」で書いたように、安倍政権を陥落させたのは中国のシャープパワーである。日本の政権与党や経済界の要人、あるいはジャーナリストの論客を墜としていけば安倍政権は墜ちるという中国の強(したた)かな国家戦略がもたらしたものだ。

安倍政権は中国のその「シャープパワー戦争」に「敗戦した」のである。

それが今日の日本であることに気が付かなければならない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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