最新記事

マレーシア

【解説】マレーシアの複雑過ぎる政治劇、またも見送られたアンワルの首相昇格

2020年3月2日(月)19時30分
クリティカ・バラグール

アンワル(左)がマハティール(右)の後継者と目されていたが…… AP/AFLO

<90年代にマハティール政権で副首相を務めた後、10年間の刑務所生活。2018年に政界復帰したアンワルの次期首相は既定路線とされていたが、政界の混乱が今度も首相昇格を阻んだ>

マレーシアの政界で、アンワル・イブラヒムほど苦難と忍耐を強いられてきた政治家はいないかもしれない。

1990年代には当時のマハティール政権で副首相を務め、次期首相候補と見なされていた。ところが、1998年に副首相の職を解かれて失脚。さらには、権力乱用や同性愛行為(マレーシアでは違法)の罪で2度にわたり合計で10年近くの刑務所生活も経験した。

それでも2018年には、長年の忍耐がようやく報われたかに見えたときがあった。アンワルは、このとき既に一線を退いていたマハティールと再び手を組んで政党連合「希望連盟」を結成。5月の総選挙で当時のナジブ政権に挑んだ。この選挙では、大方の予想を覆して希望連盟が地滑り的勝利を収めた。

こうして、汚職疑惑が持ち上がっていたナジブに代わり、マハティールが首相に復帰した。このときは、2年後にはアンワルが首相に昇格するのが既定路線と思われていた。しかし、マレーシアの政治は大混乱に陥り、アンワルはまたしても首相の座を逃しそうだ。2月24日、希望連盟内部の足並みの乱れを理由に、マハティールが首相辞任を表明した。後継首相選びは混沌とし、誰が首相になるかは、複雑な多数派工作の行方に左右された。希望連盟は当初、アンワルを次期首相候補に推していたが、29日になってマハティールの首相再就任を目指す方針に転換した。

野党連合は希望連盟から離脱したグループと連携する動きを見せた。野党連合の核を成すのは、マレー人の全国組織である「統一マレー国民組織(UMNO)」とイスラム主義政党の「全マレーシア・イスラム党(PAS)」だ。

マレーシア政治に詳しいタスマニア大学のジェームズ・チン教授によれば、国の人口の約半分を占めるマレー人イスラム教徒の間には、現状への不満がくすぶっている。「これらの政党は、少数民族の力が強過ぎると主張。現政権はイスラム教徒を守らないと訴えて、有権者の恐怖心をあおっている」と、チンは言う。

マハティールは、政界でもマレーシア社会全体でも幅広い層の支持を得ている。1981~2003年の長期政権で目覚ましい経済発展を成し遂げたこと、そして2018年の総選挙でスキャンダルまみれのナジブ(UMNO所属)を倒して首相に返り咲いたことへの評価は今も高い。

「マハティールは非常に老練な政治家だ」と、マラヤ大学のアワン・アズマン・アワン・パウィ准教授は言う。「彼は意のままに状況を操作できる。UMNOが政権奪還のために今回の騒動を仕組んだ可能性は否定できないが、もしそうだとすれば欲張り過ぎたのかもしれない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ、鉱物協力基金に合計1.5億ドル拠出へ

ワールド

中韓外相が北京で会談、王毅氏「共同で保護主義に反対

ビジネス

カナダ中銀、利下げ再開 リスク増大なら追加緩和の用

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中