最新記事

軍事同盟

フィリピン、米軍との地位協定破棄を通告 暴走するドゥテルテの真意は?

2020年2月14日(金)19時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ドゥテルテ大統領は訪問米軍地位協定破棄を米国に通告したが…… REUTERS

<南シナ海進出を狙う習近平へのプレゼント? ドゥテルテの真の狙いはどこに──>

フィリピンのドゥテルテ大統領が米軍のフィリピンでの軍事演習などを決めた「訪問米軍地位協定(VFA)」の一方的な破棄を2月11日に米国に通告した。協定は通告後180日を経過すると自動的に無効となる。

今回のVFA破棄に関しては国軍などを中心にフィリピンの安全保障への影響を危惧する声が根強かったが、ドゥテルテ大統領は「(米軍との協定を破棄しても)中国がフィリピンに攻めてくるわけではない」(10日)などとしてその影響が深刻でないとの見方を示し、一方の米トランプ大統領も12日に「フィリピンが決めたことである。米としても多くの経費を節約できるだけだ」と意に介さない姿勢を見せ、安全保障面での両国関係の冷え込みが危惧されている。

ドゥテルテ大統領が正式にVFA破棄に踏み切った背景には、「フィリピンで罪を犯した米兵の裁判権がフィリピン側に基本的にない」「米兵に偏った特権が与えられている」など、同協定がフィリピンにとって不平等な内容となっていることも理由と指摘されている。

しかし、破棄の姿勢を最終的に固めた直接の動機としては、ドゥテルテ大統領が2016年の大統領就任以来積極的に進めている麻薬対策との関連がある。

麻薬戦争に対する米からの批判が背景に

麻薬取締の現場で捜査官などによる令状なしの発砲、抵抗した容疑者の射殺などの超法規的措置というドゥテルテ大統領 による強硬手段は米政府から「法的手続きによらない捜査手法は人権侵害の懸念がある」などとの批判をこれまで何度も招いていた。

そうしたこれまでの経緯に加えて1月に麻薬捜査の陣頭指揮を執ってきた1人で、ドゥテルテ大統領とも親しい元国家警察長官のデラロサ上院議員が米国入国に必要な査証(ビザ)を米側に申請したところ、米当局から拒否されたことが明らかになったことが関係しているといわれている。

麻薬捜査の違法性を指摘し続けてきた米は2019年12月に上院がフィリピン政府高官の米国入国制限や資産凍結を内容とする決議を採択した。今回のデラロサ上院議員のビザ拒否もこの決議に基づくものといわれている。

VFAの破棄問題は実は古くて新しい問題で、これまでにもフィリピン政府はその不平等性や予算の面から破棄をちらつかせながら、内容の平等化を米側との交渉のテーブルに乗せようとしてきた。

しかし、南シナ海での中国による海軍増強、領有権問題がある島の軍事基地化などその脅威の高まりを受けて、実質的な破棄に踏み切れなかったという背景もある。

今回も破棄の意向を口にしたドゥテルテ大統領に対して軍部を中心に反対論や慎重論が噴出したが、依然として約80%と国民からの高い支持率を背景にしたドゥテルテ大統領の決断で破棄決定となった。

破棄に関してエスパー米国防長官は「間違った方向への動きだ」とけん制したが、デルフィン・ロレンザーナ比国防相は「米の(軍事的)支援がなくてもフィリピン軍は任務を全うできる」としてドゥテルテ大統領を支持する姿勢を示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中