最新記事

生物

イカはイヌに匹敵する複雑な神経系を持っている

2020年2月5日(水)18時15分
松岡由希子

イカは複雑な中枢神経系で擬態する...... atese-iStock

<豪クイーンズランド大学の研究チームは、世界で初めて、MRI(磁気共鳴画像)をベースとしたアオリイカの神経回路の地図の作成に成功した>

イカやタコなどの頭足類は、無脊椎動物の中で最も複雑な中枢神経系を持つことで知られている。ニューロン(神経細胞)の数は一般的な軟体動物で2万個、ネズミでも2億個であるのに対し、頭足類の一部は5億個を超え、5億3000万個のニューロンを持つイヌに匹敵する。

その複雑な中枢神経系により、擬態したり、パターンを認識したり、様々な信号を用いてコミュニケーションしているとみられている。

神経結合の60%以上は、視覚や運動制御と関連する

頭足類の脳は、どのような構造になっているのだろうか。豪クイーンズランド大学の研究チームは、世界で初めて、MRI(磁気共鳴画像)をベースとしたアオリイカの「コネクトローム(神経回路の地図)」の作成に成功した。一連の研究成果は2020年1月24日、学術雑誌「アイサイエンス」に掲載されている。

研究チームは、神経経路をマッピングするべく、アオリイカを蛍光神経トレーサーで染色したうえで、造影MRIと高解像度の拡散MRIを用いてアオリイカの脳を検査し、三次元でその構造を撮影した。その結果、既知の神経結合281個に加えて、新たに145個の神経結合を発見した。新たに確認された神経結合のうちの62%以上は、視覚や運動制御と関連するものであったという。

squid-mri.jpg

Chung iScience, 2020

多くの神経回路が擬態や視覚的なコミュニケーションに関与している

研究論文の筆頭著者であるクイーンズランド大学のWen-Sung Chung博士は「多くの神経回路が擬態や視覚的なコミュニケーションに関与していることがわかった」とし、「これによって、アオリイカは、色を識別できないにもかかわらず、擬態変色して、捕食者から逃れたり、獲物を追ったり、仲間とコミュニケーションする能力を得ているのであろう」と考察している。

Chung博士らの研究チームは、2016年9月に発表した研究論文において、頭足類が色を識別できないことをすでに示している。

脊椎動物の神経系との類似性

研究チームでは、「一連の研究成果は、頭足類の神経系と脊椎動物の中枢神経系との収斂進化(異なる系統の生物が独立して似通った形態へ進化する現象)を裏付けるもの」と評価。

Chung博士は「これまでに様々な解明が進んでいる脊椎動物の神経系との類似性は、行動レベルでの頭足類の神経系について新たな示唆を与えるだろう」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロ産原油、割引幅1年ぶり水準 米制裁で印中の購入が

ビジネス

英アストラゼネカ、7─9月期の業績堅調 通期見通し

ワールド

トランプ関税、違憲判断なら一部原告に返還も=米通商

ビジネス

追加利下げに慎重、政府閉鎖で物価指標が欠如=米シカ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中