最新記事

東南アジア

インドネシア、2019年は民主主義劣化 人権団体が報告書で警告

2020年2月28日(金)17時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)

2019年12月、反逆罪で逮捕されたパプア独立運動の活動家たちが裁判所内で連帯の歌を歌っている。REUTERS/Willy Kurniawan

<1998年に渇望された民主化を手にした東南アジアの大国は今、政治、人権などで危機的状況に>

インドネシアの人権問題や政治の自由を研究する民間組織がこのほど2019年のインドネシアの民主主義に関する報告書をまとめ、その中で「民主主義が劣化している」と結論付けていることがわかった。表現の自由や集会の自由が治安当局などによって著しく制限、妨害を受け、その結果約50人が命を落とし、6000人以上が訴追を受ける事態が報告されたためだ。

人権団体の関係者は「国民の基本的な権利に対する侵害事案の多さは予想を上回るものだった」としてジョコ・ウィドド政権に実情の把握と事態改善を訴えている。

国際的な調査機関もインドネシアの民主主義指数の中で「欠陥のある民主主義」と指摘するなど厳しい見方を伝えている。1998年に32年間にわたるスハルト長期独裁政権が崩壊して民主化の道を進んできたインドネシアだが、治安当局による人権侵害事案が依然として続発するなか、これまでの民主化の停滞がさらに劣化にまで変質していることに人権活動家や団体は危機感を強めている。

デモなどで51人死亡、6千人以上訴追

インドネシアを代表する人権団体のNGOである「インドネシア法律扶助協会(YLBHI)」は2月27日までに2019年の国内人権状況をまとめた報告書を発表した。それによるとこの1年間で政治的なデモや集会に参加した国民のうち51人が死亡、6128人が身柄拘束、逮捕の結果訴追を受ける事態になったとしている。

死亡した51人のうち6人は射殺され、1人は催涙弾が死因とされ、いずれも警察など治安部隊によるものという。残る44人は死因不明で、医学的な証明ができている訳ではないがデモ参加中の負傷などが原因という。

法的訴追を受けた6128人の中には324人の未成年が含まれ、いずれも公の場で政治的意見を表明するデモや集会に参加したことがきっかけとなっている。

YLBHIによるとこの数字はインドネシア全土34州のうちの16州での統計に過ぎないことから実数はさらに多いものとみられている。

権利侵害事案の発生最多はパプア地方

YLBHIによると市民の権利が侵害されたケースでは「表現の自由侵害」が全体の53%「集会の自由侵害」が32%となっている。調査対象となった州で最も侵害事案が多かったのがパプア州と西パプア州のあるパプア地方で18件が報告されている。次いで首都のジャカルタ11件、中部ジャワ州9件、南スラウェシ州7件と続いている。

パプア地方は2019年8月17日に東ジャワ州スラバヤ市で起きたパプア人大学生への差別発言事件の影響で大規模な抗議デモ、集会が続き、一部が暴徒化するなど治安が悪化したことを受けて軍や警察が要員を増派している。その結果、治安維持や独立を求める武装抵抗組織の掃討作戦に便乗したパプア人に対する暴行、脅迫、殺害などの人権侵害が続いているとされている。

YLBHIのアスファナワティ事務局長は地元メディアに対して「2019年の国民の権利に対する侵害事案の多さは予想を超えるものだった」と述べて憂慮を示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米司法省、FRBに財務状況の明確化要請 CFPB資

ワールド

メキシコ・ブラジル首脳が自制と対話呼びかけ、ベネズ

ワールド

原油先物1%超上昇、米のベネズエラ制裁対象タンカー

ワールド

欧州議会、ロシア産ガス輸入停止計画を承認 2027
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中