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感染症

新型コロナウイルスはなぜ感染拡大したか 検査・治療が後手にまわった武漢の実態

2020年1月31日(金)11時38分

症状が出てもなかなか検査を受けられないことが、感染拡大の一因となっている可能性がある。写真は武漢市内の病院で患者を治療する医療スタッフ。1月25日、微博に投稿されたもの(2020年 THE CENTRAL HOSPITAL OF WUHAN)

ヤン・ツォンギ(53)さんは発熱の症状が見られてから2週間過ぎても、まだコロナウイルスの検査を受けられずにいた。息子のツァン・チャンチュンさんによると、医師たちは密かに家族に対し、感染はほぼ確実だと告げていた。

ヤンさんだけでない。中国湖北省武漢市の住民の多くは、なかなか新型コロナウイルスの検査や治療を受けられずにいる。検査と治療の遅れが、この病気の拡大の一因となっている可能性がある。

息子のツァンさんによれば、ヤンさんは入院を認められず、悪化する肺の症状を治療するため、市内4カ所の病院の非隔離区画で点滴を受けているという。

「兄と私は毎朝、6時や7時に病院に行き、1日中並んでいるが、新しい回答は何も得られない」と、ツァンさんは言う。

「ベッドが足りない」、「政府から通達が来るまで待って」、「状況がどうなっているかニュースに注意してくれ」──。入院できないことに対し、病院の返事はいつも同じだった。「医師たちもみな非常に苛立っている」と、ツァンさんは語る。

デマを流したと8人逮捕

新種のコロナウイルスは、正式には「2019-nCoV」と呼ばれている。このウィルスを原因とする死亡例が最初に確認されたのは1月10日、武漢に住む61歳の男性だった。

このとき中国は、ウイルスの遺伝子情報を他国に提供した。日本やタイなど一部の国は3日も経たないうちに、中国からの旅行者の検査を開始した。

だが、湖北省疾病管理予防センターの職員によると、ウイルス検査キットが武漢市内の一部の病院に配布されたのは、最初の感染死亡が確認されて10日ほどたった1月20日ごろのことだったという。武漢の保健当局によれば、それ以前はサンプルを北京の研究所に送って検査を行っており、結果が出るまでに3─5日を要したという。

武漢保健当局のデータをロイターがまとめたところ、この空白期間に市内の病院で医学的な経過観察を受けた患者の数は、739人からわずか82人に減少した。この間、中国国内では新たな症例は報告されていない。

武漢市内で信頼性の高いデータも検査体制も確保できなかったにもかかわらず、中国当局は、ウイルスが確認されてから数日間、広範囲に感染するものではないと市民を安心させようとした。ここ数週間、ネット上では感染状況に関する悲観的なコメントが検閲され、「風説の流布」容疑で8人が逮捕されている。

チェンという姓を名乗る45歳の女性は、「医師はマスクをしておらず、どうやって身を守ればいいのか分からない。(略)誰も教えてくれない」と話す。

彼女の叔母は、入院から5日目の1月20日に感染が確認されたという。「(中国のソーシャルメディアである)微博に叔母の写真を投稿したら、警察が病院当局に来て、私に投稿を削除しろと命じた」。

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