最新記事

オーストラリア

オーストラリアの動物受難はコアラだけじゃない、5日間で何千頭ものラクダが射殺された

Thousands of Camels Culled in Australia

2020年1月16日(木)18時30分
カシュミラ・ガンダー

今やオーストラリアはラクダの生息数で世界最多だ SheraleeS/iStock.

<イギリス領時代に持ち込まれ野生化したラクダが数を増やし、干ばつのため水を求めて人里に現れ駆除対象に>

森林火災でコアラやカンガルーなど多くの野生動物が危機に瀕しているオーストラリアで、野生化したラクダが何千頭も射殺されている。

元凶は長引く干ばつだ。水を求めて移動するラクダの群れが、砂漠地帯の周辺に位置する先住民の村々を脅かすようになった。

<参考記事>オーストラリア森林火災、動物の犠牲は5億匹

ラクダの殺処分が実施されたのは、オーストラリア中南部・サウスオーストラリア州の北西部にあるアボリジニ自治区アナング・ピチャンチャチャラ・ヤンクニチャチャラ。人口2300人の自治区周辺で、ヘリコプターによる駆除作戦が1月12日まで5日間行われ、野生化したラクダ5000頭余りが射殺されたと、当局者が発表した。

干ばつにたたられたこの地域では、ラクダが「カラカラに乾いた一帯」から水を求めて人里に移動。先住民の村々や聖地の周辺などに「極めて大きな群れ」が押し寄せるようになったたと、当局者は言う。


州都アデレードから約1250キロ離れたカニピに住む自治区の運営委員マリタ・ベイカーは「それでなくても酷暑とひどい気象条件で不快な思いをしている住民はラクダに手を焼いている」と話す。「ラクダはフェンスを倒し、家のそばまで侵入して、エアコン(のホースや室外機)から出る水を飲もうとする」

人間の勝手の殺処分

「ラクダが水を求めて通りをうろついているので、幼い子供が心配だ。子供は面白がってラクダを追いかけるが、もちろんとても危険だ」と、ベイカーは言う。

今回の作戦はこの地域で初めて実施された大規模駆除で、「干ばつと酷暑で大量に集まった野生ラクダが村々に及ぼす脅威への緊急対応」だと、当局は説明している。オーストラリア気象局によると、サウスオーストラリア州に加え、南東部のニューサウスウェールズ州、北東部のクイーンズランド州では、2017年初めから降雨量が平均を下回る状態が続いている。特に2019年は観測史上最悪の干ばつに見舞われた。

<参考記事>野生動物を「大絶滅」から救う初の世界地図

「ラクダの駆除は、野生の害獣を管理するための最後の手段として、動物福祉の最も厳しい基準を遵守して行われた」と、当局は述べている。

オーストラリアにラクダとは驚きだが、19世紀にオーストラリアを植民地支配していたイギリス人が持ち込んだ外来種で、野生化して数が増え、近年では駆除の対象になっていたと、自治区の運営責任者リチャード・キングは話す。サウスオーストラリア州当局によると、以前は先住民の地主がラクダを捕獲して売却していたが、数が増えすぎて手に負えなくなったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中