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イラン情勢

イラン、核合意の制限放棄で深まる核危機

Iran Fully Withdraws From Nuclear Deal and Criticizes Europe

2020年1月6日(月)18時30分
ジェイソン・レモン

米軍が殺害した軍司司令官スレイマニらの棺に祈りを捧げる最高指導者ハメネイ師(中央)とロウハニ大統領(その左) (2020年1月6日、テヘラン) Official President's website/REUTERS

<「アメリカはイランを核合意から追い出した。ブレーキをかけるのは今しかない」>

イラン政府は1月5日、イラン核合意の制限を全面的に順守しないと発表した。3日にイラン革命防衛隊クッズ部隊のカセム・スレイマニ司令官がアメリカ軍に殺害されたのを受けた措置。

イランの英字紙テヘラン・タイムズは5日、政府の発表として「今後イランはウラン濃縮および核燃料の備蓄、そして核の研究開発のレベルに対するいかなる制限にも縛られない」と伝えた。ウラン濃縮の制限が外れれば、イランは一気に核兵器の開発に近づくことになる。

イランのジャバド・ザリフ外相も、核合意の下での制限を今後順守しないという同国の決定をツイートした。

スレイマニ司令官殺害の瞬間とされる映像


ドナルド・トランプ米大統領は2018年5月にイラン核合意から離脱したが、EU、ドイツ、フランス、イギリス、ロシア、中国は核合意の存続を目指してきた。核合意では制裁の緩和や投資と引き換えにイランが核開発を抑制することになっていた。

国際原子力機関(IAEA)からの報告では、イランはきちんと核合意の条件を順守していた。にもかかわらずトランプは核合意に批判的な立場を崩さず、核合意が中東におけるイランの反米行動を助長したと主張していた。

欧州の司令官殺害への反応に不満も

核合意離脱後にアメリカが新たな制裁を発動した後も、イランは核合意の順守を続けるとともに、その存続に向けて各国の指導者らと交渉を続けた。だがアメリカの核合意からの離脱から1年経った昨年5月以降は、段階的に合意条件を破ってきた。

核合意の制限を全面的に順守しないと決めたのは、スレイマニが米軍に殺害されたからだ。イランの指導者らは以前から、アメリカに核合意への復帰をうながす適切な圧力をかけてこなかったとして、国際社会、特に欧州諸国を批判してきた。

正式な決定に先立ち、イラン外務省の報道官は「政治の世界においてはすべての事象が互いに影響し合う」と述べたと、国営イスラム共和国通信は伝えた。報道官はスレイマニ殺害に対する欧州の反応も批判した。

「以前から欧州の人々の姿勢はイランとずれがある一方で、アメリカとは比較的似た姿勢を取ってきた。最近の彼らの姿勢は無礼と言ってもいいほどで、建設的でもなければ受け入れられるものでもなかった」と報道官は述べた。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は本誌に対し、イランとアメリカは破壊的な衝突を避けるために核合意に復帰すべきだと語った。

<参考記事>軍事力は世界14位、報復を誓うイラン軍の本当の実力
<参考記事>イラン革命防衛隊の司令官殺害 トランプの攻撃指令に法的根拠はあったのか?

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