最新記事

日本社会

20代~30代女性を悩ませる、夫の転勤に伴うキャリアのリセット

2020年1月22日(水)16時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

「転勤」と「家族の仕事の都合」の転居者の実数をグラフ<図2>にすると、ジェンダーの差(対称性)が明瞭になる。

data200122-chart02.jpg

転勤は男性、家族の仕事の都合は女性で圧倒的に多い。後者による女性の転居者は、20代~50代の合算だと26万人にもなる。1年間でこれだけの女性が夫の転勤に付いて行くという理由で転居していることになる。

ピークは20代後半から30代で、ちょうど結婚期と重なっている。一緒になった相手の転勤により離職を強いられるのではないかと、気が気でない女性も少なくないだろう。現在では、離職の損失が大きい正規雇用の職に就いている女性が多い。未婚化の要因は、こういう所にもあるのかもしれない。

配偶者の転勤で女性の労働力が失われるのは問題だと、地域間で人材を融通し合う業界もある。地銀協会は、銀行に勤めていた人が転居先でも同種の仕事に就けるよう、人材のデータベースを作っている。

転勤の制度そのものを見直す(なくす)企業も出てきた。そもそも転勤に必然性はあまりなく、各地の支店を経験させて視野を広めるとか、愛社精神を涵養するとか、その程度のものでしかない。解雇が容易でない日本では、気に入らない社員を「飛ばす」制度として機能している面もある。

現在では、転勤の強制は人権侵害という見方が広まっている。転勤がない企業は就活生にも魅力的に映るようで、望まない転勤を廃止したところ新卒の応募者が10倍に増えたという企業もある(「望まぬ転勤廃止で新卒応募10倍に AIG損保の決断」『日経スタイル』2019年7月3日)。非合理な制度を存続させる余裕など、今の日本社会には微塵もないはずだ。

<資料:総務省『就業構造基本調査』(2017年)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中